第1043回 新生物発見の報に接して思う

あいみん【愛民】(名)人民を愛しその福利を念となすこと。− 金澤庄三郎編『廣辭林新訂版』三省堂発行(昭和12年1月25日新訂第360版)より引用
 
 すぐ忘れる。本誌報の本来の目的に立ち返ろう。国語事典引用からの短文作成稽古で、陣中日誌は糧食の記録、戦闘詳報は舞台記録および諸事雑感綴りである。自分のため、そして後代末裔への記録だ。
 制約が多くて困る。本当はもっと自由に居酒屋で原語を打ち叫ぶように赤裸々に記したい。伏せ字だらけになるだろうが。
 
 朝、自宅にて、梅干しで茶漬け一膳。茶大コップに3杯。ソーセージ3本ほど。
 おそ昼、自宅にて、娘の菓子籠からハッピーターン5包み、チロルチョコ2個。
 夕方、泉北1号線沿い道路で、アイソトニック飲料500ml1本。
 夜、堺アルパで、シチュー1椀、飯1膳、ルッコラの葉3枚、ベーコンとキノコの炒めもの。
 帰宅して、焼きビーフン小皿一盛。缶チュウハイ500ml1本。
 
 肉類を食べたくなりソーセージでも買おうと近所の阪急ファミリーストアに行く。店に入ると強烈なポップが目に飛び込んできた。
 曰く「新生物!」と。
 鮮魚コーナーだった。それを見た衝撃に10メートル手前で立ちどまる。旋律が走った。そんなものが発見されたのか、知らなかった。テレビをほとんど見ないから「新生物発見」の報にも触れなかった。
 どんな生物だろうか。21世紀のこの現代社会で新しく発見されるんだから、さぞかし秘境と呼ばれるような奥地か高地、いや、おそらくは大深度の海底などから発見されたにちがいない。きっとそうだ、深海だ。だから鮮魚コーナーなんだ。わかったぞ。水生生物だ。テレスコ、ステレンギョの類いだな。
 おい、ちょっとまて、待て待て待て。しかし待てよ。そんな最近発見されたばかりのような「新生物」を、いきなりスーパーの店先で大衆相手に売りさばいていいのか?安全性はどうなんだ?まさかめちゃめちゃグロテスクな形してるんじゃないだろうな。
 
 よ、よし、見てみよう。まあ安けりゃ買ってやってもいい。初もん食いは75日長生きするというからな。どんな格好さらしてけつかんねん…。恐る恐るそのポップの下においてあるトレイに近づく。
 
 見た。サンマだ。普通のサンマにしか見えない。
 「そんな馬鹿な。これはれっきとした脊索動物門条鰭綱ダツ目サンマ科の真正なサンマ(学名Cololabis saira)、本人じゃないか。海がなくて魚を知らん元・奈良県民でもこれくらいはわかるぞ!」
 怒りが沸沸と湧いてきた。「なにが『新生物』だ!」
 スーパーも新手の商法を編み出してくるものだ。これじゃあ新生物詐欺じゃないか!こんな普通のサンマを「新生物」などとアナコキよって、この、いつわr…。
 よくポップを見るとルビが打ってあった。小さな字だったから見えなかったんだ。
 
 「しん・なまもの」
 
 あ、そうですか、と。僕の心拍数は急激に平常に戻り、顔に読み間違えたテレの赤みがさした。発見から気づくまでの約3秒の長きにわたり不用意に声を出さなくて良かった。読み間違いをだれにも気づかれてない。おー、恥ずかし。
 しかし、実にうまそうなサンマであった。読者諸賢に謹んで告ぐ。サンマの季節がやってきたようだ。
 
 堺アルパに出席のため自転車で走る。往路1時間35分は登り坂が多いので仕方がない。復路1時間9分。ベストタイムが出た。記録する。
 アルパの席にて皆で諸々話す。僕たちのテーブルは14人だった。2回目。様々な方とみるみる旧知のごとくなるは、ともにテーブルに座されたかの方の『愛民』に等しく与えられる賜物であろう。実に楽しい。
 異教徒と宣言した上で、道を求める諸賢のお話しを末席で伺う不思議。この席に坐るご縁の妙をクラリネットのおじさんとの出会いから反芻する。
 これらのことは機会があれば詳述しよう。今はこの項、パブリックなる本誌報ではこの程度にとどめおく。