第1232回 (仮名)中谷先輩のこと 2

 文字数規制にひっかかった。続ける。前項の続きだ。


 それだけじゃない。下の段は飯だ。この飯の量が尋常じゃないんだ。できるだけ分かりやすく言うよ。小さな弁当箱の半分の面積、そこに厚さ1センチの飯が薄ーくある。それだけ。後は底が見えてるんだ。
 もっと分かりやすく書くと、砂浜だ。砂浜があって、後は海。陸地はそこで終わっとる。あんなもの握り寿司の2貫分くらいしか飯はない。
 小人の弁当だ。僕は初めて彼女のそれを見たとき、思わず言ったよ。
 
 「貧しいんですか?」
 
 しかし、彼女は貧しくない。セレブだ。ご主人はこの激動の現代社会を生き抜いてきた不動産業者だ。セレブな香りが漂っている。
 しかし、こっちもなかなか疑り深い性格をしている。元不動産業者だからだ。
 ピンときた。おかしい。こんな弁当で体がもつはずがない。ということは、だ。おそらく僕らが見ていない晩か朝に、莫大量の飯を食ってるに違いない。きっとそうだ、そうでなきゃつじつまが会わない。
 
 僕は彼女に聞いてみた。
 
 「昨日の晩飯、何食いました?」
 
 すると彼女はメニューを言った。
 
 「焼き魚、サラダ、味噌汁、お漬物にご飯」
 
 きっと凄いの食ってるはずだ。焼き魚はマグロの半身焼きか、イルカの姿焼き。サラダとは聞こえがいいが、キャベツが1人3個、漬物はキュウリのQちゃん2袋、味噌汁や飯茶碗は給食のバッ缶に満載。ああ、それならわかる、この弁当でもわかるよね。じゃないと体がもたないじゃん。
 
 なるほど、そういうことか。スンゴイ茶碗で食ってんだ!そこに気がつかなんだとは、浅はかだった。
 僕は、合点がいったシタリ顔で聞いた。
 
 「どんな茶碗で食ってますか?」
 
 彼女は指で茶碗の大きさを示した。それを見て僕は唖然とした。なぜならその指先に確かに見えたのだ!あの若い頃から慣れ親しんだあの謂いを!
 朝顔塗りの薄い薄い茶碗で箸が当たればチンチロリン、おまけに箸には金のパッチが履かしたある…。
 そ、そんな!そんな華奢な茶碗か!バケツじゃないのか?
 
 …わかった。この時、僕にはすべてがわかった。みんなも、もうわかったろ。
 僕は、それから彼女の昼飯の弁当について触れるのを辞めた。彼女のことがわかったからだ。触れられるとまずいこともあるはずだ。
 
 そうだ、彼女は「ホンモノ」だったんだ。
 
 そう、光合成という自身の秘密を隠し、人類に混じり「ハイブリッド」として生きている彼女。どうか(仮名)中谷先輩のことを他所で話すのはやめてくれ。
 やっと光合成してる人を見つけたんだ。探していたんだ。
 なぜなら、お、これはまだ皆には話してなかったな、僕は大飯食らいのフリをしてた。ずっと偽装していてすまなかった。本当は、僕も光合成との「ハイブリッ…、 あれ?こんな遅くに誰か来たようだ、ちょっと玄関を見てくるよ。