第1218回 至急、チャンドラ博士に電話せよ、あ、無理か。

アイロニー【Irony】(名)あてこすり。反語。− 金澤庄三郎編『廣辭林新訂版』三省堂発行(昭和12年1月25日新訂第360版)より引用
 
 ずいぶん長いことご無沙汰している。
 愛読の諸侯からもどうなっているんだ!などのお叱りを頂いており申し訳なく思ってる。
 
 実は、えらいことになったのだ。と、いっても、皆さんがお考えのような以下のような理由ではない。
 たとえば、死んだ、とか。いや、不治の病で闘病生活を送っているとか、はたまた、突然、地下鉄御堂筋線であらぬ痴漢の冤罪を吹っかけられ大阪拘置所に拘留中であるとか、あるいは海外の20億ぐらいの宝くじにあたってマイアミに豪邸を構えて金髪ブロンドとの甘い生活を楽しんでいるだとか、ひょっとしてハリウッドで超大作のチョイ役日本人役の撮影がクランクインしただとか、まさかの神隠し、蒸発、駆け落ち、失踪とか、いっそ人類の未来を背負ってエイリアンの人質に志願したとか(以下略)、他にないか。
 
 まあ、そげなご陽気な理由なのではない。
 
 この日誌は基本的に携帯電話で書いているのはこれまでにもすでに述べてきたところ。その携帯電話が故障したのだ。その故障がただの故障でない。尋常ではないのだ。
 キャリアはウイルコム、機種はシャープ製携帯電話WS020SHである。
 まず、画面のバックライトが点灯しなくなった。いつも真っ暗闇の中でわずかな表示の跡形を探って入力していた。これだけでもかなり不便であった。
 続いて、電源が知らぬ間に落ちることが多くなった。満タン充電にしているのに、節電状態に入るみたいにフワッと自動的に電源が切れるのだ。気づかず過ごしていると、電話がかかった場合「電源が入っていないためかかりません」の案内が流てしまうのだ。これでは、昼勤の時など完全にサボってラブホテルにでもしけ込んでいるようにしか見えないではないか、狂ったように働いていたとしても、だ。
 また、それからしばらくすると、どう設定し直しても、着信音がならないようになってしまった。鳴っていても気づかないんだ。電源が入っていても、着信しているのに、出ない。こりゃまた、昼勤中、完全にサボってラブホテルにでもしけ込んでいるようにしか見えない。困ったことになった。でも行けるところまでいってやろうと辛抱していた。
 そして、最終的に、通話がつながっても、相手方の声が全く聞こえないという状態になった。向こうに僕の声が聞こえているのかどうかもわからなくなってしまった。それを確かめる方法がないんだ。こっちには一切無音だからだ。
 だんだんと順番に機能が削られていくような故障のさまに、かの『2001年・スペースオデッセイ』のHAL9000が、デビッド・ボウマンに論理ユニットを抜き去られて、最後「デイジーデイジー」を歌うあのシーンを彷彿とさせる携帯電話。こいつは自分をなんだと思っているのであろう。飼い主のまったく役に立たない状態で、ご主人の首にぶら下がっているなど、世界中でがんばる携帯電話仲間の末席を汚す、携帯電話の風上にも置けない単なる鉄の箱だ。それを首にぶら下げてる僕は単なる『アイロニー』でしかない。電話機が、電話でけへんかったらアカンやろ、バカ。
 
 事ここに及んで、僕は遂に決心した(ちょっと遅すぎた気もするが)。そう、修理しようと。
 
 保険に入っていたので、数千円で新品に代わるらしい。良かった。修理の期間中、代品を出してもらえることになった。だが、この代品、これが渋い。電話と、メールのみ。ネットなし。
 打てるテキストの文字数は2000文字。打鍵にも指がなれず、僕は一挙に無口、物言わずとなった。
 修理には約2週間かかるという話だ。今、書くべきことを事務所の裏紙やらチラシに書いているので、ご希望の方にはファックスでも送りましょうかね、いりませんか、そうですか。
 まあ、とにかく不自由しているのだ。こんな日はもうしばらく続く。すまぬ。