第1210回 (仮称)東加賀屋徹之進先生の盆踊り大会手伝い、その打ち上げに関する一件

 ご承知のように、現下、表現舎は、自身の視界(幻想)に「真実」を見出さんとする道半ばの求道者だ。この日誌は表現舎の雑感を書きなぐる記録である。
 書きなぐってるとはいえ記録の目的は、舞台・昼勤ともに、集団であるいは個別に、年間数万のオーダーで至近距離に面と出会う中で、「主客一体(注)」の妙を思い起こし、神聖な感動を誰あらん3人の娘をはじめとしたわが子孫血脈に書き残す「遺言」であることは再々書いてきた。
 
(注)主客一体 : トリガーを誤ちなく引けば、主客という立場も主主、客客となり、主客という存在もそれぞれに個々の点の集合でなく面として、また空間を構成する気として「ひとつ」となって時空を共有しているという2009年8月15日に見えたハラショーな状態。「本来、主客一体であったということを思い出す(茂八)」ことであって、「俺が主客一体にするんだ」と息巻いてアプローチすると必ずしくじる。
 
 この前述の目的に加え、幻想のうちに見えた感動や真実をどこかに書き記しておかないと忘れちまうという忘備のためというのもある。また本質的に怠惰・筆不精な乱坊をして、体感を文字列化せしむることは、体感を咀嚼し経験に引き揚げる、思索と体系化の重要な一工程でもある。
 かかる目的を持つ日誌は、怠惰筆不精の質を、極少数の熱心読者の叱咤を鞭として、何かに追われるように「書かねばならぬ」状況に追い込んできた歴史がある。広告の裏紙に書き綴っても良いものをネット上に駄文千二百余回を掲げているのはこれが理由だ。
 ネット上で実名を赤裸々に掲げると、相手方に対し差支えがある場合が想定される。殊に昼勤は特殊な業界であるからして、親方関係各位に迷惑のかからぬように仮名を乱用している。ジョゼッペ・グリマーニ元イタリア空軍中将、エージェント・モーリタニア・ド・フレンチ、アンドロイドNS-9000T、鼻かみ家ブラピ、ペンキ屋の大将、旧姓中谷先輩、イドガー・アラン女史など、あたかもB級の海外SFドラマを彷彿とさせる登場人物らはすべて実在であり、僕の「主客一体」への旅を多彩に彩ってくれている。
 同様に差支えを考慮して上記表題を書いた。剣術指南役みたいになっているが「(仮称)」と記す訳をくどくどと書いてみた。ここまでで既に疲れた。携帯は満充電から空になって、今、充電器に接続した。
 
 東加賀屋徹之進先生は、鼻かみ家ブラピの前・親方で、新進気鋭の志士である。名前が長いので、以下姓名の二文字目を取って加之先生とする。
 8/30は、ジョゼでの勤務を早めに終えると、「加之先生の盆おろり会場」に赴く。広いグランドに重量鉄骨製のヤグラが立っている。立派だ、立派すぎる。直下型地震がきてもビクともせんだろう。ウチを建て替えるときにはこの仕様でいきたい。
 で、ブラピや青年部長さんとオネオネしながら開演に突入。本部テントでビール係。同業他社の助っ人、元寿司屋の信ちゃんとやる。
 彼は、寿司屋から政治家の秘書への華麗なる転身を遂げた若者だ。僕は、かつて海の家を経営していたこともある。双方、水から這い上がってきた両生類である。
 ビール係は、氷満載のドブ漬けからキンキンに冷えた缶ビールをウエスで拭いてプラコップをのせて、お運び担当の皆さんに渡す。信ちゃんも昔を思い出しているかして、声が完全に寿司屋に変貌した。
 お運び担当の皆さんが僕らの方に来ると「ビールおかわりでーす」などとおっしゃる。僕と信ちゃんは声を揃えて「ハイよぉ、ビール入りましたー」とやる。また来ておっしゃる、「おかわりでーす」。「ハイな、今度もビール、ありがとうございます」。「すいませーん」、「ホイよ、またビールですか、いやぁ、今日はビールがよく出るなあ」。ビールしかないのだ。当たり前だ。
 これを延々800本分くらいやる。二人でショートコントを延々やっているようなものだ。ポーンと高いとこへ行く。加之先生からも「飲んでや」とは言われたものの、業務中であるから9本までは数えたが、嗜む程度に唇を湿す。
 ヤグラ付近では幾重にも踊りの輪が重なり、浴衣姿の連の皆さんに混じって、風呂上りに覗きに来たような普通の格好した老若男女が、実に見事なステップを踏みながら踊りに打ち興じている。日本人は内向的な民族だと思っていたが、ラテンの血が溢れでていて会場はど偉いことになっていた。盆踊り大会には公私で行くが、こんなデカイのは見たことがない。
 僕はそれを見て独り涙ぐむ。盆踊りの本来は、平素、我がを抑えて生きる民衆の、発散の一夜であったに違いない。日誌のどこかに盆踊り大会と地域の連帯について書いた回もあったはずだ。実に皆さん楽しそうに踊っておられる。嬉しい。
 連の練習もあるようだ。僕は来年は踊る。浴衣で来て踊る。高校の体育は1年は河内音頭だ。長居競技場で踊ったんだ。でも型が違うように思う。この正調を練習して踊る。格好良く踊るぜ、来年。ブラピ、練習日程送ってくれ。
 
 そんなこんなで、ビール係という業務(というかショートコント)が終わり、加之先生の事務所に片付けて自宅に帰る。自転車で3分。近すぎて笑う。
 
 9/2は、後援会直近の皆様と打ち上げ。ブラピ、新ちゃんと本会同席の栄に浴する。加之先生ご夫妻、事務所のお姉さま方両巨頭ともお近づきになれた。
 インド料理の店。いつも自転車で走っているバス道にこんな店があるとは知らなんだ。ブラピと仕事しているときに「ナンがうまい、ナンがうまい」とうわ言のように言っていたあの店だ。
 話は色んなところへ。特筆はうちの親方の素晴らしい点を順にあげていくあの下り。話が尽きることがない。滔々と謳い上げる皆の発言を、紙ナプキンに僕が書記していくのだが、小さな字で書いているのに卓上の一束全部を使ってしまい、紙ナプキンをお代わりしたのは生まれて初めてだ。この調子で語り続けると帰れなくなるぢゃないかと話を打ち切ったほどだ。
 ナン、サラダをアテに黒霧ロック。ドーンと盛り上がる。でもカレーを食べた記憶がない。皆で黒霧一瓶空けてほろ酔いで帰る。歩いて3分。
 帰ってスーツを脱ぐ。探す。左右のポケットに入れて帰ったはずのメモした紙ナプキンの束がない。あれほど書いたのに一枚もない。どこかに落として帰ったのだろうか。あれには一体なにが書いてあったのだろう。夢、幻だったか。