第1141回 港区社協いきいき教室(港区港晴連合東会館)

 年度末のロードが始まる。「今日から―」「河豚鍋」、40名。
 開演前、迎賓していると雪が降り出した。寒い。被災地はさぞかし寒いことだろう。
 震災に触れずには進めない。ここは港区の一番海っ側の連合だから、海沿いの住之江区民とどこに逃げるかイメージしておこう、と話す。
 本編は、ご臨在を感じる良き会であった。感謝。おそらく本年度で一番乗って喋ることができた。かなり人の前(延べ人数)で喋ってきた。でも飽きない。飽きないのは毎回、お客様の構成と箱が異なり、こちらの心身もこれまた一定ではないので、おそらく同じ舞台は2度とないからである。金のことはまあいい(いや、いるが)、もっと回を重ねていろんな人の前で喋ってみよう。ダメな日もあるがそれにも意味がある。真理とおぼしきものの端くれに触れ、芥子粒ほどの信念を持って実験は続く。面白い。
 
 終わって退出。久しぶりに何もスケジュールのない夕方だ。明日のパワーポイントも週頭に完成させてある。
 まつ梨をお迎えに行く。友人のドイツ人のお父さんと話してみたいと思ったからだ。いた。僕を見つけると近づいてきた。彼は、さっそく地震の話題を振ってきた。
 彼と話すのは面白い。ちゃんと意思の疎通はできるが、話す口調は70年代の大相撲、パンナム社長の「表彰状」朗読口調なのだ。
 
 「怖イ、デーシタネェ」
 「ええ、人間とは、はかないものだと思い知らされますね。ドイツも揺れますか」
 「ノンノンノン。ドイツ地震ナイデース。ドイツの友達ガ、危ナイからドイツ帰テ来い、言いマース」
 「いいですね、帰るところがあって」
 「デモ、ワタシ帰リマセーン」
 「お、日本に骨埋づめる気になりましたか」
 「骨埋メル?イエ、ワタシまだ死ンデマセーンがな。オー、違イマース。ナゼナラ仕事アリマース」
 「なるほど、仕事ですか。ほで、どんな仕事です?」
 「ワタシ結婚式の牧師さんデース」
 「ああ、牧師さんですか」
 「イイエ、結婚式の牧師さんデース」
 「ん?牧師さんなんですよね」
 「イイエ、結婚式専用の牧師さんデース」
 「結婚式専用?」
 「ソデース、結婚式専用デース」
 「結婚式専用?ちょっと意味がわからないんですが」
 「ホテルの結婚式トカニ派遣サレテ行クンデース」
 
 派遣牧師か。そんなものがあるのか。派遣労働、劇団かなんかか。ま、現場のメールが来て装備持って仕事に行く夜勤警備員みたいな感じか。僕はそう理解した。いろんな仕事があるんだな。
 葬式に何本も出ていて思うが、葬式坊主も、すごいのもいるんだろうけど、なんだかなあというのもいる。ホテルにいる牧師・神父業界もいろんな人や形態があるのかも知れん。
 
 「そのお仕事されてもう長いんですか」
 「ワタシは日本二来テ十数年経ちマース」
 「日本語が見事ですね」
 「オ、ソデースカ?」
 「ええ、ドイツなまりがありますけど、ちゃんと会話になっていますものね」
 「アウチッ!オー、コレハ仕事用の喋リデース。本当ハ、モ少シ流暢デース」
 「本当は流暢?」
 「エエ、デモ考エテモミテクダサーイ。結婚式デ、姿形ハ欧米人牧師ナノニ、コッテコッテノ大阪弁デ『爪に火ぃ点すようなときでも、折れて曲がって笑い止まらんときでも、愛するって誓いなはれ、ほれ、どないですぅ』トカ、ヤッタラ、雰囲気、丸ツブレデショー?」
 「確かに、今の『』のなかは流暢ですね」
 
 そこに、そのドイツ人の友人の嫁はんが来た。二言三言、夫婦で小声で言葉を交わすのを聞いた。それはそれは実に流暢な大阪弁であった。
 「あんた、バレイ終わったら、柔道のお稽古連れていったってや」
 「わかってるがな。送っていくけど、帰ったらすぐ箸持てるようにしといてや。晩飯、昨日のブリ大根の残りと、サバのきずしやったら魚ばっかりやで。そんなん、あかんでぇ」
 そう言うと、僕の方を向き直り、
 「オオ、今夜ハ、トテモ美シイ満月デースネー」
と、パンナムに戻った。
 
 彼は、ホントは見事な大阪弁使いだった。食生活もバリっと日本人だ。
 僕や、たくさんの新郎新婦たちは、虚像を見ていたのである。