第1140回 素朴で簡単な疑問

 疑問が2つある。日本国を双肩に担うリーダーとしての内閣総理大臣の「行動」と「判断」についてである。これを論ずるに僕の政治信条や支持政党は関係ない。現下、事態は戦時下であり、超党し挙国一致の救国体制でなければならんことは震災発生時から強く本誌報で申し述べてきたところである。
 現場においては、一般民間人の被害状況把握、不明者の捜索、負傷者の救急救命、食糧援助物資の輸送、ライフラインの復旧確保が最優先であるが、その主体となるべき行政、自衛隊、警察、消防、医療従事者らの兵站、命令指揮系統が壊滅的状態にあり、非常な混乱を極めている。まさに官民、民民、被災地と全国が手を携えてこの国難に向かうべきときであり、衆院解散総選挙はもとより統一地方選挙すらも、今や何を論点として戦うべきのかよくわからぬような状態である。
 ここに記すのは、政権への文句や苦言ではない、そんなたいしたもんじゃない。一国民としての単なる、ホンの軽い疑問だ。
 まず、震災当初の内閣総理大臣の「行動」についてであるが、彼は震災の翌日12日早朝、ヘリで福島第一原発の現地視察に行ったと、仕事の車中で聞くラジオで聞いた。僕は、この報道を聞いて「憤怒っ!こやつ宰相の器にあらず」と叫んだ。
 思うに、そもそも内閣総理大臣の仕事は、危険な最前線での軍の斥候や専門部隊、行政、民間専門家などの情報収集をすべからく集約し、閣僚や官僚の意見具申を受けて、参謀本部の椅子にドッカと坐り、ただただ、そこで適切に迅速に「判断」や「指示」をすることではないのか。その決断の責任をすべて負い、国民に報告し理解を得て、対応策を牽引するのが仕事ではなかろか。にもかかわらず、現地へノコノコ出かけて行って、何、ウロウロしているんだと耳を疑った。
 僕らのような底辺の階層でも、たとえば選挙運動で参謀本部長がそこら辺りに居なければ、運動自体がむちゃくちゃになってしまうのを見るじゃないか。プロジェクトリーダーがプロジェクトの中心に居なかったら、適切な判断を下せずプロジェクト自体がおじゃんポコペンになったりするのを見てきたはずだ。そればかりではない、アホ学生の集りである落語大学ですら、寄席当日の設営やリハの際、学長や事務長は、総務を通じて全軍に指示するため、客席の中央に「象徴」としてドッカと坐っていたじゃないか。あなたがフラフラ最前線に行ってどうするのか。誰が判断するんだ。もしくは、あなたは「象徴」の前で、走りづかいをする「総務」くらいの役なのか?
 また昔、当時の橋本龍太郎総理が奈良の橿原体育館に来たとき、スタッフとして駐車場整理しながら見ていたことがある。現地では知事、市町村長以下関係者らがお出迎えに長時間待っているところへ、SPや警察車両が山盛り隊列を組んで移動してきて、散開し警護に当たるのだ。総理大臣が動くと、ものすごいことになるんだ。
 あれは平時であった。現下は戦時である。総理に事故や被爆、暗殺や誘拐があったらどうするのか。それどころか、警護や移動にあたる公務員、また原子力の素人に説明するご案内役の専門家は、現地でのもっとやるべき仕事に手を割かせるのが当然であって、ものすごい邪魔になっていたはずだ。こんなことがわからんのか。
 東京電力に本人が乗り込んで、長時間、取締会で罵倒したとも聞く。今は関係者総員の士気を下げるようなことをしている段階ではない。またヤカラ言いに行くなんて総理大臣の仕事じゃない。そんなことさせる奴は他にもおるだろう。なんであなたが行くんだ。その間は誰が判断してるんだ。
 なんか恐ろしいくらいにリーダーとかになってはならない人に国を託しているんじゃないか。この人は何をしているんだとマヂ思う。合理的に説明できる人には、彼の行動をホント説明してほしい。もしかしたら、だ。この一連の不可解な行動は、カイワレをほうばったときと同じ「僕は一生懸命やってます」というパフォーマンスであるなら、確実に組織を動かす器にないことだけは、一人親方の僕にでも痛いくらいわかる。であるなら、彼を頂くことこそが国難である。一刻もはやく大政を奉還せよ。野党に返せとかは、もう言わない。あのビデオメッセージは心を打った。「臣らにはもう無理です」と一端、陛下に返すべきだ。
 続いて「判断」の問題だ。
 今、米軍と自衛隊が協力して孤立する被災地に緊急援助物資が輸送されているが、この第一発目は、米軍ヘリが「民主党政権に無許可」で孤立する避難所に強行着陸して成功したものだ。避難民が喜ぶ中、民主党政権は「余計なことをするな」と抗議したと伝え聞いている。人間として終わっとる。
 災害発生の当初から、米海軍の空母や艦船が被災地沖に移動し停泊、救援活動に備えていることは各種報道でも明らかになっていた。自衛隊と米軍は震災当初から協調して「なんでもやる」と官邸に進言していた。日米同盟すごいじゃないか。これは10万(兵站も含め18万)という日本が持てる兵力の大半を東日本に集中させることを、極東反日三国の国民性(現地の新聞翻訳や掲示板から容易に探し出せる。喝采している奴らがいる)から、手薄となる西日本の防衛に睨みを効かせる意味でも大変意義があったと思う。東亜秩序維持のため日米同盟の意義に合衆国が自発的に気づき(日本の要請なく)迅速に行動したことは、現政権により信用が揺らいだ両国関係において意味あった。
 が、表面的にはかかる軍事的背景ではなく、人命尊重と緊急物資援助という目的で動いているのであるから、ありがたいことではないか。にもかかわらず、合衆国艦船は、日本国政府から何らの要請も受けず、長らく洋上において手持ち無沙汰に時を過ごしてしまっていた。これに業を煮やした米軍ヘリが自衛隊と連携して政権に無許可で物資を運搬したとするなら「止むに止まれぬ大和魂」の発露として、当該行為に及んだ自衛隊員と合衆国将兵に感謝したい。また他にも、機能不全に陥っている民主党とは関わりなく、野党が首長連合と協力して、日本海側からの物資輸送の手配行っているとの話も聞く。これらは、迷走する無能者へのクーデターである。素晴らしい。
 加えて、専門家ではないからわからないんだが、おかしなことはまだある。相当早い段階で合衆国から「原発の冷却材を提供する用意がある」との申し出があったことは明確に記憶している。このとき日本国政府はこれを断った、と聞いて怒髪天を抜いた。解決の方法が見いだせなかった当時、なぜその方法の一つである冷却材の提供を断るんだ、手元に置いといて、いらんかったら返しますわで済むじゃないか。なんで置いとかないんだ、と南田辺でパッソの中、叫んだのを覚えている。
 またかなりの時間が経ってから、冷却装置を再稼働させるための電源としてGE社のガスタービン発電機を合衆国から空輸する依頼をしたと聞いた。僕は山坂でパッソのハンドルを叩きながら唇を噛んだ。
 「どうして今ごろなんだ!どうしてGEを空輸するんだ!」と。
 停電で周囲から電力が供給されなければ、まず考えるのは自主電源確保だろ?小さな工務店でもやってるじゃないか。それを放射能が漏れる前ならまだしも、ダダ漏れに漏れてから再稼働かよ。おそいよ、誰がケーブルつなぎにいくのさ。ほいで、どうして空輸なの?三菱でも、石川島播磨でも、日立でもあるだろうが。これもだれか教えてくれ。
 阪神淡路で当時の革新首相は対応が遅れたのを「未経験なもので」と口を滑らし顰蹙を買った。また自衛隊の補給物資を受け取るなと神戸でビラを捲いた人間が政権中枢にいる。
 米国、また海兵隊自衛隊の救援を心待ちにしている人が多量にいるんだ。なぜこんな米国の連携の判断がスマートにいかないんだ。さっさと受け入れればいいではないか。
 まさか、まだ政権内部ではアメリカのことを「米帝」とか言ってんじゃないだろうな。学生運動はもう終わってほしい。平和なときにやれ。