本町にある「三幸」という居酒屋は、粋花師、まっか師ら赤ちゃん本舗上層部高官らの御用達の良店である。ここで土曜日、「三幸寄席」と銘打ち、わが尊し敬し奉る先達らがご共演されるということで、朝からわが足は浮足立っていた。
僕は悩んだ。今日は妻が白寿苑でデイのお手伝いなので、娘らの番兵役を仰せつかっておる日である。おまけに土砂ぶりの雨。秋雨に彼女たちを濡らして風邪でも引かすと、どんなお叱りを受けるか解らない。困ったことになった。
女房を質に置いてでも見に行く価値ある良番組である。もんどり打ちながら僕は彼女らを説得する。
「学校の宿題も置け!公文も今日はいい!国語の課外学習に行く!ついて来い!」
「え!宿題しなくてもいいのっ!じゃあ、行くっ!」
まんまと僕の術中にはまった彼女らにあまがっぱを着せ、長靴を履かせ、本町に急ぐ。
ついた。残念ながら来舞兄、千太師は終わっていらっしゃった。見たかった。
中入り後、笑鬼師、枕「バスタオルと私」、本編「上燗屋」。枕の「バスタオルと私」は構成を変えて頂くことにした。著作権者了承済み。
本日のトリ。わが偉大なる先達、ネタくりの王者・粋花師による「おごろもち盗人」。繰り倒されているであろうことが、客席からも見て取れる。気持ちいい。
小3と小1の娘らは、たまたま空いていた一番先頭の唾かぶり席でおとなしく見てる。えらい、えらいぞ。人のお話しをちゃんと聞ける人になれ。たくさんのお話しを聞いて、いろんな人や気持ちがあることを知れ。そして、華やかな舞台の裏に地道でひたむきな準備があることを知れ。ピアノもバレイもお歌も皆同じだ。君たちがいそしむドリルのお稽古も、勉強も運動も。少しくそんなものが垣間見れれば、今の君たちにはそれでいい。
終演。打ち上げ。心づくしのお料理。僕は娘らをほっぽらかして飲む。彼女らも腹一杯食ったようだ。散らし寿司が秀逸だった。
驚くべきは、この日のお客様に、虚空に向かってはなっていると思っていたこの駄文集成を、好んで読んでいらっしゃる熱心読者が、一般民間人におられるということだった。褌の紐をしっかり締めて書かないといかんなと表現舎として心を入れ替える。ちゃんと書きます。すいません。
一次会で帰ろうと踏ん張った自分をほめてやりたい。娘らに手を引かれふらついて帰る。