第978回 国名考

 免許講習の順番待ちで辞書の参照ができぬ。今回は辞書からの短文作成練習はお休みして、雑感などを綴る。
 
 サッカー大会は16強に入ったと聞いた。選手諸君に敬意を表し、今後のご武運をお祈りする。
 試合を見ていて思う。パラグアイと、ウルグアイの選手たちは互いの国名を聞いてどう思うのだろうか。一文字目だけが異なり、二文字目は別段同ラ行音、三文字目から終端まで完全一致である。お互いに似てるなと思ってるのだろうか。似ているから間違いも起こりやすいだろう。
 
 南アフリカ大会事務局ご指定の政府登録国際観光旅館で、歯の抜けた高齢の仲居さんが叫んだとする。
 
 「ファファグアイしゃーん、夕食できましふぁよー」
 
 大きな座敷の端と端で屯ろしていた両チームの選手らは、ごろ寝して、柿の種なんかを撮みながら、色の薄くなったティーバックの緑茶を飲んで笑点大喜利を見ている。練習に疲れ空腹に殺気だっているから大変である。
 選手たちは一斉に叫ぶ。
 
 「おばん!ファファグアイでは解らんねん。飯はどっちやっ!パラグアイかい!ウルグアイかい!」
 「へ?せやからファファグアイ、…ボンボラボーン」
 「おばん落研か?その空気抜けとるファファ…のとこが肝心やねん、グアイの前や。どっちやねん、パラか、パ、ラ、グアイか」
 「は、ら、ぐあい…?あぁ、ハイハイ、私の腹具合を尋んねてくれてなはる?ああ、それなら3日前からダダ下りじゃ」
 「…あのなあオバン、あんたの腹具合どうでもよろしねん。ほなウルか、ウ、ル、グアイか」
 「へ?売る具合?(泣く)た、確かに、お客さんは減っとりますがの、わたしゃ旦那様からも女将からもこの旅館を身売りするとは聞いとりゃしませんでの。学校出て、先の旦那様からお仕えして、5年前まで仲居頭やっとりましたんじゃ。売る具合になっとるやなんて、この私に何の相談もなく…。ああ、ここほりだされたらワシャどこ行けばええんじゃ、ああああ(泣く)」
 「…いや、あのな、ワシらそんなM&Aの話してんのんちゃうねん。違うねん。飯はパラか、ウルか!パラ、ウル!パラ、ウルのどっちや!」
 「おお、あんたウチのお爺さん、ラバウル行ってたん知ってたんかいな!戦闘機乗りでなあ、ホンええ男じゃったんよ。若いように見えちょるけど、あんたもラバウルかえ、こりゃ奇遇じゃねえ」
 「おい、あかんわー。誰かここ代わってーな。今晩中に飯食えんで」
 
 こんな混乱の事態に陥ることは、火を見るよりも明らかである。