第967回 奉祝!小惑星探査機「はやぶさ」嬢ご帰還

あいぎょく【愛玉】(名)他人の娘の敬称。− 金澤庄三郎編『廣辭林新訂版』三省堂発行(昭和12年1月25日新訂第360版)より引用。
 
 以前にも書いたが、使いこんだ機械に名前をつけるのは、マシンに魂が宿ると考える日本固有の原初な宗教感の表れであろう。殊に長年使い込んで、苦楽を共にしたお気に入りの一品には思い入れも一入である。(※本日誌2006-12-21 付第81回「旅立ち」をご参照願いたい。)
 さて、日本人として生まれたからには、見逃せない、見逃せてはならない一大イベントがある。皆さんもよく御承知である小惑星イトカワからの探査機「はやぶさ」嬢のご帰還だ。
 数年前に西播磨天文台のバンガローに娘たちと泊まりに行ったとき、このプロジェクトの存在を知った。爾来ずっと気にはなっていた。その間「彼女」(JAXAは少年のように書いているが、本来「船」は女性のはずだ)は、創造を絶する大変な任務を果たして帰ってきたのである。
 絶望する程遠くに漂う小惑星イトカワに哀れ単身着陸し、その地表の砂一握を土産に持って帰る。携帯話者には申し訳ないが、そのミッションはここに掲げるニコ動に詳しい。
 見たら泣く。きっと泣かずにおられまい。泣いていい。僕も何度も泣いた。しらふで、妻や娘らの冷ややかな視線に晒されながら、鼻水を垂らしオイオイ泣いた。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7813584
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10978863
 今や彼女の推進機関は経年劣化し、何度も通信不能に陥ったと聞く。云わば「満身創痍」の状態であって、数々の奇跡的好運や管制スタッフの尽力を得て彼女は漸く母なる地球に帰還してきたのだ。
 プロジェクトマネージャー川口氏によるブログを読んだが、これは正に家族や親友への手紙に見える。先端科学の第一線で働く科学者らがあのような想いで機械を擬人化するのを見て、この国もまだまだ捨てたものじゃないと思う。機械を使う人はああでなくっちゃならない。
http://hayabusa.jaxa.jp/message/message_001.html
 全ての国民、殊に国の宝である子供たちに夢や希望を与えるこの事業、もっともっと娘ら世代にしっかり広報して欲しかったと痛感している(これは冗談だと信じたいが、本件が事業仕分けの対象だとか聞く。携帯ゆえソースがないのでよく解らないのだが、もし本当なのであれば、技術立国としてしか立ち道のない本邦の国力を大いに削ぐ行為として政府に厳重に抗議する)。
 テレビ・新聞を見ぬ情報弱者であるので、情報源はネットと機械翻訳しかない。本邦の既存メディアらは、連日連夜、日本の偉業である「はやぶさ」一色となり、国民が待ち望む真に伝えるべき情報として、実況に近き形でその旅程や状態を映し出し続けているであろうことを想像し、マスメディアの本義、ジャーナリズムの真価をここぞとばかり、画・紙面一杯に繰り広げていてくれていることであろうなあと、テレビ・新聞しか見ない我が母親などをうらやましく思う。サッカーや政局などとは比べものにはならない重要無比の一大冒険なのであるのだから。これは体力勝負の文系者でも容易に判別できる。
 お土産の砂の入ったカプセルを大気圏に放った後、彼女自身はその使命を終え大気圏で燃え尽きる。この13日、形見のカプセルはオーストラリアの砂漠に落下するという。大事業を終えた彼女が最期に放つ閃光が見えれば(見えないのだろうか)、僕は手を合わせ彼女の7年もの長き苦闘を労いたい。
 残り少ない道中のご安全を節に願い、この日本国民全ての愛玉はやぶさ」嬢の最期安らかなれ。