第964回 乱坊、新しいデートスポットに興味あり!

あいきょう【愛郷】(名)郷里を愛すること。あいきょうしん【愛郷心】(名)郷里を愛する精神。− 金澤庄三郎編『廣辭林新訂版』三省堂発行(昭和12年1月25日新訂第360版)より引用。
 
 お母さんと長女は所要でお出掛け。次女・まつ梨と僕は留守番子守役を仰せつかっておるが、天気頗るよく、協議の末、ママチャリで高津神社に赴く。背中のリュックにはワカメお握りとフリカケお握り、家詰めのペットボトル2本を携行する。
 最近、まつ梨は「○○に興味あり!」という用法を好んでよく使う。彼女のマイブームだ。WOWWOWを家族で見ていたとき、彼女がマイケルジャクソンのダンスを見て、顔を父母にバシッと向け指差して、表情を作り、「まつ、マイケルジャクソンに興味あり!」と言い放ったのがその初出である。
 興味のある対象は様々に及ぶ。キャラメル、母の携帯電話のゲーム、姉のお化けの本、食器洗い、空き缶潰し、折り紙のクサリ作り、オレンジジュースなど。脈絡はない。
 1時間半、お喋りしながら二人乗りの輪走でやっとついた。二人、高津社境内の絵馬堂に休む。仁徳帝の故事、文枝師の石碑、飾ってある絵馬の一枚一枚を見る。風が爽やかで心地よく、お弁当をここで使うことにする。
 本殿ではどなたかの結婚式が挙行されており、まつ梨はお握りを食べ終わると、「まつ、結婚式に興味あり!」と叫んで駆けていく。本殿前の木陰で厳粛なる儀式をジッと観察する様は、内偵した先を監視する国税査察官の視線である。後で聞くと、奥から神様が出てくるのを見逃さないために必死に見ていたようだ。
 僕は残っていた内村鑑三を読了し、もうぼちぼち帰ろうと立ち上がりかけるというと、まつ梨が走ってきて、「まつ、大阪城に興味あり!」と叫ぶ。仕方ない。大阪城まで上町台地の坂を避けて平地沿いに走り抜け、御城に着く。
 天守閣は外から見るものだ、と力説したのだが、上に登るというので入場する。えらい出銭だ。全階の展示を仔細に見る。それを小学校一年に噛み砕いて説明するのには随分と骨が折れた。
 もうぼちぼち帰ろうと立ち上がりかけるというと、まつ梨が走ってきて、「まつ、ダンスパフォーマンスに興味あり!」と叫ぶ。城内で、大道芸のダンサーがメカニカルなダンスを行い、水晶玉の空中浮遊などトリッキーなダンスも行うパフォーマンスをするとマイクで告知している。「見てよろし」と許諾すると、彼女は駆けて行って演者真っ正面の砂被りに三角座りして開演を待っている。あれを無理やりに引きずって帰ることはできぬ。
 仕方ない。圓楽師などを聞き待っていると、大道芸は終わったらしく、まつ梨がトボトボ帰ってきて自転車の後ろに自発的に乗る。帰りながらダンスの感想を聞くと、「ダンスは面白かったが、ダンスの間のおしゃべりがつまらなかった」という旨のことを言う。この年代からお喋りを批判することができるのかと恐ろしくなる。
 帰りは彼女、眠くて眠くて後の子供用籠に三角座りして寝てしまったので、起きるまで押して歩いて帰った。先日の父に続いて娘も傷物にするわけにはいかない。
 この高津社、御城をはじめとして、公園、博物館、遊園地、動物園、水族館、山、川、海。大概色んなとこに遊んできた。彼女たちもいつまでも遊んでくれるとは思わないが、そろそろ新しいデートスポットを、新たなる愛郷・大阪で探し出さないといかん。連れて行く方も飽きてきているのだ。自転車で行ける所に限るが。