第930回 宿屋宿の布団の中宿

 ニンニクを食べると妻がうるさい。臭いなどと言う。
 勿論、うるさいのでひかえてはいる。しかしたとえ微量であっても彼女は見逃さない、見逃しては貰えない。
 例えば、だ。
 妻と別行動で、僕が娘たちを連れて実家に一泊で帰った時は、母に頼んで焼肉にしてもらう。焼肉のタレには微量のニンニクが含まれている。娘たちはソーセージや肉、玉葱などをタレに漬けて食べる。実に少量だ。僕からすると小鳥が啄む程度。薄味に育てているのでタレなどは皿に数滴垂らすだけだ。食後、実家で風呂入って、歯を磨いて寝させる。お泊りだ。
 翌朝、純和風な朝食を食べ、パンと牛乳で昼飯となし、夕食ではお魚などを食べて、実家を後にする。帰りには、電車でむずからないように、お茶・オレンジジュースなどを飲ませ、自宅に帰って風呂に入れ、歯を磨かして、まつ梨がお母さんに抱っこしてもらう。すると奴は、
「ニンニク食べたやろ!」
と言う。天寧・まつ梨をクンクンしてニンニク臭を探し倒す。
(※筆者註 夫へのクンクンは決してないことに読者は注意するべきである)
 実際にまつ梨が摂取しているニンニクの量は微量に過ぎて、たとえ同量の青酸カリを摂取したとしても何ともないほどの量である。それを妻は敏感に察知する。そしてニンニク臭いと窓という窓を開け放すのだ。それはたとえ厳寒の最中であっても変わりない。
 今週は、前述の実家焼肉以外に、茂八君と定席・玉出寺嶋立ち飲み部で多いに盃を交わし、而して後、タマユのニンニクラーメンを食した。また昨夜は久しぶりに大木、出世の両君と盃を交わす。こちらも定席・難波角屋だ。
 ニンニクラーメンは勿論のこと、角屋のタレ(莫大量の葱はニンニクと同じ扱いになる)や生センマイのゴマ油ソースには大量のニンニクが含まれている。
 今週は、妻に言わすと受難の週らしい。我が家に彼女の嫌いなニンニク臭が満ち満ちているという。僕には全く感じないんだが。
 かくて僕の寝室(妻子と寝室を異にしてはや6年。男女で寝室を別けている)の窓は今週全開であった。野外で寝ているのと同じだ。日中は温かいが夜は肌寒い日もある。全く世界ジャンボリーにでも参加しているような気分である。新世界〜大国町界隈で寝ている気分と言い換えても良い。