第917回 まつ梨の通過儀礼

 1月26日火曜日快晴。
 月曜日に奈良で璢畔兄と別れ歸宅。自宅にて妻製クリイムシチユウ。飯に掛けてシチユウ丼一杯。
 久方ぶりに指令室より夜勤の要請を受け、長らく會つてゐないので顏も見たく赴く事にする。T工務店の監督と樣々語る。
 彼とはまう半年の付き合ひなり。馬合ひで互いに立場と年齡の禮節を以て付き合ふは愉快にして心地好し。
 午前三時に上がり少しく休憇室にて皆と語らふ。M建設の職長O君から玉出まで送らうとの申し出を有り難く受け便乘の機會を賜る。彼れの仁、纖細にして明朗、餘と同世代の良き漢なり。車中樣々を語る。徒歩1時間50分の道程を30分で歸る。
 歸宅。歸りにセブイレで買ひたる燒き餃子を暖め燒酎を一合。後に電網に向かふが座して居眠りたり。午前五時寢所に入る。
 1月26日午前八時起床。早く起きて、まつ梨の晴れ姿を見る。本日入學調査本番なり。
 餘が家では、これに當たるにこれまで樣々論じ合ひ來たり。姉と同じ學校に入れるは意味ある事か。眞に彼女の爲なるか。
 同じやうに育てゝも、姉は靜かに本を好み西成圖書館を讀破する勢ひなり。ゆつくりさんのノロマで人に臆して恥づかしがりたり。反して妹は、はしこく、お繪描き、歌や踊りを好み、讀書は專ら母さんに讀んで貰つてばかりゐる。字は子供書いてるバリにミヽズの這ひゐたり(全くヒドイ)。B型でガサでお喋り。直ぐに仲良しを作り、見知らぬ子にも話し掛ける。が、大人は怖い同年代辨慶なり。
 學校が同じなれば樂とか、別の學校ならかわいさうとか考へてないか。重ねて自身に省みる。
 そも/\就學前の教育は、家庭教育の仕込みのみであつて、本來、家庭の居間で、或いは食卓で、極く當たり前に躾たるものを問ふ。
 國立の入學調査から見える國家の教育擔當部局の望む教育觀は至極當たり前の姿なり。確かに、言語、空間、圖形、數、歌や踊り等は多少の訓練を要するが、一般常識として問はれる年中行事、風習、季節、花、生き物、社會規範等は大人が目を白黒させるほど、餘等が忘れ去つて來た家族・社會や自然と、本人との關係を問ふものばかりである。
 受驗の爲ではなく、彼女らとの思ひ出と常識育成の爲に、野で凧を上げ、山に遊び草木の名を教へ、田畑でシロツメ草の冠を作る。兩婆さんからの援助物資の芋の皮をペティで剥かせ(手を切らせ妻に叱られ)、色んな行事を樂しみ、或いは一臺も車來ぬ信號で呆然と待ち、落とし物のハンカチ一枚を交番に屆け、電車でブラ/\する脚をシバひてきた。弔ひで生死を見詰め、長幼の分限と禮節を保ち、質素愼ましやかに、かつ難澁してゐる友や人を助け、あとは姉妹相和し助け合ひ生きてゆけばそれで良い。
 語らんとしたるは正に仁義禮智忠臣孝悌と勇なり。それが爲に餘が周りの澤山の大人に圍まれ育ち、人間社會の麗しき協同を感じて慾しいと願ふてきたところである。
 これらは試驗があるから教へて來たのではなく、親から子に繼承すべき世界觀を傳承しやうとしたまでだ。そしてコツコツ頑張つて、世の中の人に役立つ人になつてくれればそれで良い。
 その、親としての傳承のモチベエシヨンアツプには非常に良かつた、この受驗といふムウブメントも28日を以て終了する。最後は籤引きだ。
 落ちたら家の向かひの小學校。文字通り息を止めてゞも行ける。
 どこにゐても花咲く春は來る。どちらに行くべきかは御心に委ねる。實際どつちでもいゝ。正解は何か等餘には解らぬ。たゞ結果發表までにやるべき目的や理由は、明確に餘が腹に落ちたのだ。アイツならどこでも樂しくやつて行くだらう。