第918回 全身で彼女の愛を

 昨夜はT工務店の別監督のオーダーで心齋橋。夜9時から11時までの2時間で終了。普通に電車で歸る。スカみたいである。これも一勤。
 
 歸ると、妻が「何やアンタ歸つて來たんかいなー、これからWOWOWでテニスあるのにぃー。チッ」と舌打ちして迎へ入れてくれる。愛である。彼女の深い愛を全身に受ける。
 彼女は餘に人指し指を突き立て餘を指差しソファーから切つ尖鋭く言ふ。
 「テニス見てる間、絶對喋らんとゐてや、ホンマに。絶對やで!」と大歡待してくれた。
 彼女はもはや餘なしでは暮らしていけぬやうだ。
 餘は男らしくビシッと答へる。
 「解つてるやんかあー、クニちや〜ん。ワシ絶對、絶對絶對喋らへんてぇーなゝなゝなつ」
 「もう、それがウルサイつちゆうねん!」
 尻に囘し蹴りを喰らふ。彼女一流のスキンシップである。彼女は餘を求めてゐるのだ。羨ましいであらう。
 「何か食ふものはあるか」と手話で問へば、
 「あるかいな、こんな時間に。何にも食べんと寢!寢て!テニス始まるねん!」
 餘は彼女の「何にも食べんと寢!」を切つ掛けに『高津の富』の龍の男のノロケの下りを一息に「先立つものはたゞ涙」までビシッと演じきり、續く「泣いてはりまつせ」の下り邊りで腰骨付近に妻の直角の(床に平行の)飛び蹴りを受け、グラリとその場に倒れ込む。
 愛には少々痛みが伴ふのだ。全身で彼女の愛を受け止める。
 餘は冷藏庫からまつ梨の「お子樣ポールウインナー」を二本ばかしちよろまかし燒酎をあふる。彼女の心盡くしの手料理である二本のポールウインナーを五ミリづゝ食べて舌鼓を打つたのだ。嗚呼、世の男性緒候の羨望のうめき聲が聞こえてくるやうだ。ふゝふ。

 水曜日。書翰數交。調査。勤務實績報告。而して後、堺アルパの同窓會に出席す。10人くらゐか。
 鍋である。いつもアルコールが入ると食べないが、ノンアルコールの會は食が進む。かなり食べた。キムチ鍋と寄せ鍋を腹一杯に。ぬくもる。
 割り前は、なゝなんと、300圓である!有り得ない。酒がないとかうなるのか!500圓で釣りが來た。
 らいむ師を通じて今治さんを知り、今治さんを通じて森脇さんを知る。森脇さんを通じてクラリネットのをぢさんを知り、クラリネットのをぢさんを通じて、數多の兄弟姉妹を得る。
 同じ席で鍋をつゝき乍ら、この席で當たり前に鍋をつゝゐてゐる事を不思議に思ふ。 今宵、皆の坐る机に同席されてゐたあの方のご配慮に感謝申し上げる。