第808回 あいかぎ【合いかぎ】

元の鍵と同じ形をした鍵で其の錠を開ける事の出来る物 ― 「学習国語新辞典」全訂第二版

木曜日。西成区津守30人。本編60分。付録「蛇含草」復習、枕込み25分。
(※本稿は一部に未成年者に相応しくない表現が含まれております。お読みになる際は保護者の同意を得てお読み下さい)
酔って家に帰ると、玄関の鍵が開かない。刺さるが回らない。その場に佇み理由を考える。何故だ?
まず思い付くのは、合鍵の劣化コピーだ。酔っ払って色んな物を忘れてくる。鞄、メガネ、携帯、ノートパソコン(上場企業や行政なら即、懲戒免職だ)。我を忘れて散逸させちゃう物品定番の上位に「鍵」は食い込んでいる。だからよく合鍵を作る。合鍵の合鍵から合鍵を作ったりしていて、マスターキーからの関係で言うと僕の鍵はヤシャ孫のひ孫という直系ながら他人に近い続柄となっている。
うちでは妻がマスターのキーを持っているんだが、妻に言わすと「娘の鍵はマスターとコピーの関係にあるが、あんたの鍵とはマスターとスレーブの関係よ」などとほざいて不しだらな性格を鍵という切り口においても責め立ててくる。
大体、ひ孫くらいから合鍵はサクッとは開かない。引っ掛かりができるのだ。物凄いテクニックを要する。僕はひ孫でひいおばあちゃんをこじ開けるテクニシャンだ。
でも、ここで気付く。
「ん?俺、最近、合鍵なんて作ってないぞ。」
朝もこれで鍵を閉めて出てきた。気付く。そして扉の前でワナワナと震え出す。
「妻だ、妻の仕業だ!」
僕は憤怒の表情で天を仰ぐ。
「謀られた。アイツ、鍵を変えやがったか…。」
確かに今月は賛助に選手権と外泊が続いた。まともに家でお泊まりをしていない(この用法自体が自宅を示すものではない)。
辺りを見回す。自転車が、まつ梨の自転車がない!顔面が蒼白になる。
「アイツ…、鍵変えるだけに止まらず、宿替えしやがったか」
うぬぅー、オレのパーソナルプロパティはどうなったんだ。着物は?見台はどうなった?
玄関の明かりがパッと付いた。扉が開く。
「あら、1004号の高野さん」
「あれ、●04号の●●さんの奥さん」
またやった。今年に入って三度目だ。●04号で丁重に詫びを入れ、●階層上の引っ越ししていない、鍵を変えていない1004号にスゴスゴと帰る。
最近、気付いた事がある。●●さんの奥さんは、別れた前の妻によく似ている。僕は相原さんの奥さんのスペアキーになりたい。スレーブでもよい。

(●部に関する注:はてなに移転するに当たり伏せ字にした)