第766回 情事

朝にサファ(西宮方言でソファーのこと)に座っていた。娘たちと座っていた。姉がおもむろに僕に聞く。

「お父さん、情事してる?」

頭がクラクラした。こんな言葉どこで覚えてくるんだ。学校か?何ということだ!教育の荒廃ここに極まれり!8歳になったばかりの小娘が父の性生活に言及するとは!
怒髪天を抜いた。しかし学校ではないかも知れない。落ち着け、考えろ!そうだ!きっと妻だ。違いない。嗚呼、無関心な振りをして僕の帰りが遅いのを勘ぐっているのだ。それが言葉の端々に出るから、娘にも影響が出るのだ!
妻だ。何ということだ!家庭の崩壊ここに極まれり!
すると妹が語気を強くしてこう言ったのだ!

「お父さん、情事やってるんちゃうの?」

読者の皆様に説明しておかなくてはなるまい。僕はそのようなことは一切ない。断じてない。そんな時間も金もない。情交にうつつを抜かすなどということが、この家庭を重んじる僕に起こりようはずがない。それを娘たちに疑われていたとは、なんということであろう。情けなくなった。
僕は声を荒げてこう言い放った。

「ない、断じてない!」
「ほら、やっぱりやってるやん!」

テレビに「おさるのジョージ」が映し出されていた。教育も家庭もそれほど荒廃していない感がした。