第765回 密告御不要

一度、味を知ってしまうとおいそれとは止められない、あの快感を知ってしまうと。若い頃に手を出してしまって以来、途中一時離れられたこともあったんだが、結局ずっと止められずにきた。
定期的に手に入るんだ。仲間からもたらされる。悪い仲間たちがいるんだ。僕はそんなルートの端っこにいるんでなかなか入ってこないんだが、まあまあコンスタントに切れないようになっている。また切らないようにしている。
手に入らなければ禁断症状が出る。何とかならないか方々に頼んでみたり、ありそうなところをお願いに回ってみたり。あまりに無いとダメになってしまうような気がするんだ。かなり習慣性は強い。
一回の時間は三十分ほどだろうか、五人くらいの仲間内でそれぞれに楽しむ。人数が多くても少なくてもイマイチだな。リラックスして臨むのがよい。馴れた服にお気に入りの音楽で。僕は基本的に座ってやるが、欧米のやつらは立ったままキメたりもするようだ。
僕は濃ゆいのをバフッと行くが、軽めのを好む人もいる。好きズキだが。自分の番が回ってくると、もうワクワクしてくる。あの高揚感が堪らない。
初めはたわいない会話を楽しみながら。うまくバシッと一発キマルともうそこからは自分の中でポーンと一段、高みに昇るのが解る。そして止めたり、出したり、溜めたり、流したりするんだ。首筋の後ろの毛がゾワゾワと逆立つのを感じ、顔は紅潮し発汗などもみられる。
臨む精神状態や体調は重要なファクターである。万全にして臨まないと影響が出る。バッドな気分で向かえば少しダウナ、ハラショーな気分で臨めばアッパーなステージまで這い上がれる。
不思議な感覚だ。表面的には平静を装っているんだが、頭の中のポテンシャルは通常よりすごく高い状態になるのを感じる。平素気付かなかった些細なものにも気付くというのかな、うまく説明できないよ。
時間が早く流れるように感じたり、止まっているように感じたりする。流れがぶっ飛んだり、頭が真っ白になることもある。
一人一人順番に回し終わると、さあそこからはパーティーの始まりだ。
パーティーは酒と肉。肉はタレ。気取って仲間にしか解らない符調でいうんだ。肉などには中々ありつけない。
でも気持ちは既にハイなとこにあるから、パーティーにはそんなものも要らないんだけどな。
まあ、神秘体験を急にクールダウン出来ないから、皆でゲラゲラゲラと笑いながら乾杯する。目と目を合わせてはそれだけでまた高いとこへ上がっちゃう。正気に戻るのに一晩かかるくらい強烈な感覚で、酒(比べたらあんなものはドロリとしたダウン系だ)の効果とも相まって、良すぎて泣き出してしまうこともある。もう飛んでしまって大変なんだ…。
…ちょっと君、司法官憲に密告のタレコミをしようとしている、そう、君だ。君は何か勘違いしてはいないか?そのタレコミ電話の受話器を置きたまえ。
飛んでしまうのは「声」だよ、キメルのは「くすぐり」だ。ビシッと突っ込んで間を取って返したり、被せたりしているだけだ。
打ち上げで声を飛ばすよな舞台だ、落語の話をしているんだ。
君は何と勘違いしているんだね。とりあえずその密告の受話器を置きたまえ。