第767回 愛娘二話題

土曜。
帝塚山音楽祭出演。僕じゃない。まつ梨だ。バレエ教室の一員として。
ここ一ヶ月、家でドタドタ自主お稽古をしていたようだ。ピョンピョンとんで何してるんだ?と思ってた。
その発表会。10年選手のお姉さんたちに混じってちびっ子たちが並んで踊る。舞台の出番はおよそ10分ほどだった。
ここまで来るのが大変だった。まず当日の朝、髪をシニヨン(注:お団子頭のことらしい。落研諸侯に解りやすく言うと「丸髷の黒パン」)に編むのだが、これが大騒動。
こんな頭をしたことがないから、5歳の愚娘は、
「こんな丸髷の黒パンはイヤー」
と言って聞かない(この言葉を厳密に言ったわけではない。言ったら恐い)。もう大泣きだ。
君はとても美しいよ、可愛い髪型だよ、などとヌード撮影の写真家みたいなセリフをさんざん並べて納得をさせ、最終リハの教室へ急ぐ。
そこで独特なバレエの化粧を施してもらう。イヤな予感がする。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Balle007.jpg

これだ。目元に最終のアイラインを入れたところで大泣き開始。

「まちゅ、こんなお顔とちがうー」
そらそうだ。時間があるなら、歌舞伎や京劇などの隈取りの例などを引いて洋の東西を問わず舞台化粧が必要性なことを説くのだが(通じないが)、今日は時間が切迫している。
15人くらいの共演者のリハを遅らせるわけにはいかない。
「…今日はもう無理だな…。」あきらめかけた。
しかし先生は手慣れたもので、年長のお姉さんにリハは任せて、30分程まつ梨に話しかけてくれる。
「舞台のお洋服は着たい?着たいの。そう。じゃあお顔もお洋服に似合うようにお化粧しないとダメね。先生もまちゅの可愛いお顔見たいからお願いできるかしら」
泣きやみかけた我が娘はそれを納得する交換として、先生の耳元で
「まちゅがおうちで悪いことをしても、お父さんは家で怒らないでくれ。ご飯のあとはおミカンを一つ食べさせてくれ。」
という2条件を提示したらしい。バレエと全く関係ないし。先生からこの条件を呑むか、と打診してきた(笑いをこらえて)。
仕方なく呑んだ。「…解りました」

舞台本番。
家でドタドタやっていたものがようやく意味が分った。
総合MC(FM大阪の人)が「今日が初舞台の人がいるそうですね。お名前を」
「表現舎まつ梨です!」
(注:姓の表記は個人情報保護のため仮名にした)
コールサインJOBU-FMから、85.1MHz上を出力1万Wで飛ばされるらしい。