第761回 最終電算機

一八さんの日記である。

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本来、コメント欄で書くべきですが、長文過ぎるので本欄を用いる。


液晶部分が薄暗くなる故障を起こしたノートパソコンを修理するために、ネットでジャンク品(作動未保証品)の同型機を買い求めた男。ジャンク品の液晶を外して、故障したそれと交換し修理を完了した。彼はその出来に満足した。

その部屋に余っていたのは、液晶が外され無惨な姿で床に転がる残骸が一つ。彼は長い時間それを見つめていたが、意を決してそっと呟いた。

「待ってろ、オレが貴様を助けてやる!」

彼はまたもや新たなジャンク品をネットで買い求める。再び液晶を外し、残骸に新たな液晶を取り付けた。

「どうだ!お前は生き返ったんだ!」

彼はその出来に満足した。

その部屋に余っていたのは、液晶が外され無惨な姿で床に転がる残骸が一つ。彼は長い時間それを見つめていたが、意を決してそっと呟いた。

「待ってろ、オレが貴様を助けてやる!」

彼はまたもや新たなジャンク品をネットで買い求める。再び液晶を外し、残骸に新たな液晶を取り付けた。

「どうだ!お前は生き返ったんだ!」

彼はその出来に満足した。

その部屋に余っていたのは、液晶が外され無惨な姿で…。

さあ、それから彼の部屋では、無限地獄の様、激戦地の野戦病院のような光景が繰り広げられた。買っては外し、外しては付け。妻子、親や親族までを総動員した一大PC修理工場のごとき様相を呈する。
彼は「待ってろ!オレが貴様を助けてやる」と叫び、ドライバーを回し続ける。
もう幾台の取り外しをしたことだろう。家業を放っぽりだし、全員、不眠不休の作業が続き疲労困憊であった。これまで従順に作業を進めていた妻 − 割烹着に姉さんかぶりをした − が、突然床に俯し啜り泣きながら一言ポツリと言った。

「あなた、こんなことをしていて一体何になるの…?」

彼は我に帰って妻に振り向き叫ぶ。

「オレが、ヤツらを助けてやらないと!」
「でも、でも、あなたよく聞いて。あなたはPCの救済者であると同時に、殺戮者でもあるのよ!」
「オレが…殺戮、者…?」
「そうよ、あなたはまだ気付かないの?あなたさえ居なければ、沢山のPCたちはそのままの姿で人生を享受できたはずよ。それを救っているだなんて、そんなのおかしいわ」

実際、仕事を放り出してこの作業に勤しむ彼の家計はそこをついていた。ガレージには修理されたパソコンが山積みされていたが、如何に完動品とはいえ、およそ一万台を超えるジャンク品の改造パソコンは、全て保証の適用外であり、これまたジャンクとしてしか販売出来ない代物だった。

「俺は、救済者でなく、殺戮者、か…。」

彼はドライバーを机にコトリと置いた。作業を止めて、その一万台を超えるPCを全国の施設に無料で寄贈した。
彼は日常を取り戻し、すっかり空になった部屋を見回した。
そこに残っていたのは最後にバラした一台の残骸(液晶部分が取り外されている)と、一番始めに故障した、ほの暗い壊れた液晶部分だった。

「殺戮者には、壊れたパソコンがお似合いだ」

彼は自嘲気味に笑うと、その二つの部品を取り付けて、最後のノートパソコンを1台完成させた。

「やっぱり、お前が最高だ」

彼はそういうと電源スイッチを入れる。でも、スイッチは入らなかった。電源部が故障していた。これだからジャンク品は困る。

それ以後、彼は手書きの生活に戻った。