第760回 蛙不知世間

日曜日。
一緒に働いていたマイミクのアイ嬢が打ち込んでいるモダンバレイの舞台を陣中見舞しに行った。
娘のまつ梨(5)がクラシックバレイをかじっているので、大人のバレイも一丁見ておこうという魂胆だ。
バレイなど縁はない。周りでバレイをやっている人なんて、まつ梨の先生しかみたことがない。普通、バレイやってる人間など居ないだろ、落研の側に。
しかし、去年アイ嬢と初めて会ったときに気付いたことがある。まつ梨の先生と同じなんだ、立ち居振る舞いが、殊に、ただ立っているだけの姿が背筋ビシーっの、シャキッーンとしてる。
彼女の直立姿勢が人類の標準とするならば、ワシの立ち姿は正に進化したての人類であって、旧タイプのピテクスっぽく見えてしまうだろう。ワシは劣等種族にしか見えぬ。座り姿なら自信はあるが、どうひいき目に見てもバーンと西田敏行さだけが強調されてしまう、そんな感じだ。
駅から少し迷ってピッコロシアタに着く。右翼最後列に着座。
初めは子供っさんの部。まつ梨みたいな年格好だろう。よくお稽古をつんでいるのが素人目にもわかる。このくらいからお稽古を積めば、そりゃ立派な舞い手になられることであろうなと感心する。
しかし演順を重ねるごとに疑問が沸く。だんだんアダルトになっていくのだが、
「ありゃ、まつ梨のやってるのと違うな?」
素人なんで的はずれは許されたい。基本は一緒なんだろうが、古典的なもの(まつ梨の先生を通してしか見ていないが)と、今、舞台で見てるものは違う。感情の出し方。グワッとかオラァーとかいう感じ。アイ嬢の舞、未来嬢(やったか?)とお二人さん(あー、手元にパンフがない)の表情、そして全員で踊るものの勢い。グイグイグイグイ前に押してくるので、こちらも(花筏の千鳥が浜大五郎みたいに)ズリ、ズリ、ズリズリズリズリと中入り毎に前席の方に移動してしまって、エンディングは前から2列目で興奮してみてた。
音に合わせて四肢を用いて(言葉なしに)表現するというプリミティブな表現手法なのに、ゾワゾワゾワとさぶいぼが立ちまくる。何だ?何なわけ、これ?あかん、泣かす気か。表情はおろか四肢の指先まで躊躇いがない。言葉なしに伝わる興奮。嗚呼。
殊に9人(後方で舞う先生を入れると10人か)が、一糸乱れぬ固まりで舞台後方から陣形を組んで、舞台前面に押し出してくる下りでは、ちょっと泣いた。あかん、こんなんあかん。ビシッと合わすな、もうあかん、泣く。
端山の小父貴も来てたから「別に?」みたいな顔でエントランスに行くのに随分と乾かす時間を取った。
色んな芸があるんだな。初めて知った。
色々見ないかん。勉強させていただきました。