第756回 北海道連合会女性部

火曜日。

某会北海道連合会女性部200名90分。まあまあ、あんなものだろうか。
それはいい。家に着いた。今、僕は感動している。帰りの飛行機の鮮やかな操縦に感無量である。
もともと飛行機には憧れていた。あの巨躯を静かに着陸させる技術。伊丹空港の西南、原田の千里川河畔、着陸機が頭上を通るポイントに良く女の子と行ったものだ。
防衛大学校も受けた。学校が強制的に受けさせたのだが、僕は幹部候補生となって空軍を志願する予定だった。見事に落ちたが。昔、この日誌に出てきたジョゼッペ=グリマーニ伊空軍中将は僕の投影された姿なのである。(※ 古参読者には覚えている人もあろう。新しい皆さんは過去ログを参照のこと)
よく服部御本宅に伺うが、あれは会長に会いたいためではない。着陸態勢に入る飛行機を見るのが目的なんだ。
数日前にも書いた。「飛行機が無人島に不時着しても生きていけるようになろう」とかつて誓った、と。
僕はいつも飛行機に乗るときは、絶対に墜落するものと思ってる。僕のイメージは、こうだ。
例えば僕がB737−700の7列のK、即ち右の窓側の席に座っているとする。その横はエンジンだ。窓から見るとそのエンジンから白い細い煙のようなものが出ているのが見える。おそらく燃料である。系統配管の亀裂から漏れているのだろう。
僕は自分のエリアの客室乗務員をボタンを押して呼び、他の客に聞こえないように立ち上がり、彼女にその旨を耳打ちする。彼女が「え?」と驚きの表情を見せて窓の外を見たその瞬間だ。窓の外がパッとオレンジ色に染まる。引火したのだ。僕は危険を感じ、立っていた横の7列通路の向こう側に座って、急いでベルトを締める。客室乗務員はこれを伝えに操縦室に戻ろうと走り出したそのときである。
体を震わせる轟音と共に右のエンジンが爆発する。エンジン部分は爆発と同時に右翼から外れ、急激に失速した右翼が下がるのに乗り上げてしまう。その乗り上げたエンジンが翼の上で回転しながら8列目から後ろに衝突しつつ外郭を吹き飛ばし、8列から12列までが外気にむき出しになる。
高度は11000メートルである。内部の気圧は急激に下がり、一瞬、機内の空気は霧が出たような状態になるが、その巨大な穴から暴風にのって様々なものが吹き出していく。強烈な右への傾斜に一斉に開いたキャビネットからは手荷物が一気に飛び出し、8から12列の乗客の頭部にガツガツとブチ当たりながら外の虚空に消えていく。
先ほどの客室乗務員は、長らく前列のプレミアムシートの一つにしがみついていたが、排出する圧力に抗しきれず、手荷物と一緒に虚空に消えた。可愛い娘(こ)だった。
もちろん、仕様上B737−700は片側エンジンだけでも飛行を続けることはできる。が、急激な右翼の失速による機体の右傾斜と、急速な右旋回を同時に引き起こし、平衡を保つために、機長はオートパイロットのスイッチを入れた途端、計器類に強かに頭部を打ち付け気を失ってしまう。
機内には酸素マスクがバラバラと落ちてくるが、減圧に耳抜きができず耳や鼻から血を流す乗客は、氷点下50度を割る冷気に皆、気を失ってしまう。気圧低下を察知したコンピュータの自動操縦によって急速降下が行われるが、僕以外の人はみんな機を失っているのだ。
僕は、寒いとこ出身なので気にならない。そこで、だ…。
 
  
さるのすけ君から、まるで僕が海外ドラマをパクって居るような描写である旨のご指摘があった。さるのすけ君、君には余所の日記でフランクフルトをおごる約束になっているだろう。それを二本にして上げるからしばらく黙っていてくれたまえ。わかったわかった、ケチャップは付け放題に付けて上げるよ。マスタードもね。
違うんだ。僕が言いたいのはそんなことじゃない。墜落すると思っているから、僕が何とかしないといけない、といつも思っているということが言いたいんだ。
僕はB737−700は経験がないわけではない。どちらかというと経験豊富な方だ。あの機の初出は1993年だ。以来およそ一万時間を超える飛行時間と指導教官によるフライトレッスン、教本の翻訳購読を受けたことがある。もちろんMSフライトシミュレータだがな。
あの機の離陸は簡単だ。管制官によって指定された滑走路まで行き、指示があるまで待機。フラップを出して下げておいて、離陸許可が出たところでフルスロットルで加速。ある程度速度を上げると操縦桿を引いて一気に上昇。目的の高度まで上がる。ギアアップしてフラップを直す。これはどんなアホでもできる。僕でもできる。
また、高度一万メートルを維持して最小燃費で方位を見定めて進んでいく、これも簡単。
でも、着陸。これが大変なんだ。1万メートルから五千メートルまで高度を下げるのは割と楽に行ける。だが、着陸地点との距離を見定めてスピードを調整しなければ、重量が重すぎて滑走路方向と進入角度の調整ができず、失速と機首下げ加速の連続でJAL123便みたいなことになってしまう。
僕は経験した一万時間の内の約七千時間は、この手動操縦での伊丹飛行場への着陸に挑戦した。およそ三百機と数え切れない乗客を灰燼に帰した。むろん周辺都市は甚大な被害であった。
それを回避する方法は、オートランディングという機能を使うこと。自動着陸だ。つまり反対にいえば、自動着陸機能を使わなければ、余程の名人でない限り「絶対に落としてしまう」ということが言いたいんだ。
そんでもって等速直線運動のためにはオートパイロット機能で飛べば別に離陸さえしてしまえばあとは勝手に飛べるんだ。
僕は離陸さえしてしまえば、ILSの周波数を合わせてタヒチでもJFK空港でもどこでも好きに飛ばしたことがある名パイロットなんだぜ。すごいだろ。
 
 
もうだいぶ酔ってるんだが、これ、何のこっちゃわからんかもしれん。
今日の人はすごく上手に見えた(機内ではしらふでずっと外見てた)。着陸態勢に入ってガーガー出力を上げ下げしてるのは、自動着陸臭いよね。シムも自動だとそうなるし。
今日の人は200キロ程手前、高度10000から5000までは、雲と乱気流でガタガタ砂利道走ってるみたいだったんだが、あれは気象条件で仕方がない。雲が切れた5000から4000くらいまで、自由落下かと思うくらいアグレッシブに出力を上げて機首を下げるんだ。エライ勢いで。怖かった。よくわからないがなんか機械らしくないなあ、ああ、本当に自分で操縦してはるねやなあと思った。
そして4000位から一切出力を触らない(ように聞こえた)。また関空手前で90度旋回を2回入れるんだが、これがよくあるガーガーがない。ちゃんと全部計算の上で失速しないように綺麗に旋回しなさるように聞こえた。
これは絶対に手動操縦だと、感心もし、得心もした。プロは手動なんだろう、きっと手動だ。素晴らしい。
もしも自動で着陸できるんなら、自動の等速直線運動は機能としてあるんだから、自動離陸さえできれば操縦士なんて要らなくなる。
前に乗ったチャイ●エアーと大違いだ。
 
まあ、酔うてるからようわからん。もう寝る。