第730回 労咳

学生時代、全然勉強しなかった所謂なんちゃって法学士を自負する私だが、今も印象に残っている試験がある。恐らく刑法であったか。確か2つの設問でできていたと思う。

(1)誰かが、この試験会場に蛇を放ったとする。どうなるか。
(2)その蛇が毒蛇であった場合はどうなるか。

試験用紙の裏と表に一問ずつが一行で印刷されていた。私は設問を読んで絶望したのを覚えている。この状況を説明するに足る法律関係の知識はない。

仕方がないので設問(1)に対しては、まずは蛇を発見した女子学生の悲鳴から始まり、学生達のざわめきの拡大、足下に蛇侵入を告げる男子学生の雄叫び、うろたえ後ずさりする気弱な者たち、机の上を飛び越え逃げる乙女の恐怖などを、明確なキャラクターと背景描写をもとに発端でリアルに表現した。

続いて、体育会系の学生諸君による蛇への威嚇、殊にホッケーの棒や弓道部員達による弓矢の応戦、眼鏡の明晰な学生による作戦提案、応援団による反撃する勇者達への盛大な応援の様など、小動物と学生との間の熾烈な交戦の模様と学生の一体化を事細かに設定し、その際における教授の適切な指導により見事捕獲に至る様を描写した。

そして訪れる平和。蛇を捕まえた馬術部員への女子学生からの賞賛の惜しみない拍手。学生達が手に手を取って喜び合う教室。そこへやってくる保健所の車。連れられていく蛇には、金パチ先生の加藤逮捕のシーンなどを重ねたりした。

裏を返して(2)には、その栄ある馬術部員が、捕獲劇の中で噛まれた傷が元で倒れ、毒蛇と判明。一時意識が昏倒。すぐさま吹田市民病院に救急搬送され救命チーム達により助けられる様。意識が戻る日の両親の喜び、また退院の日には教授を始めとして(1)で活躍した多彩なキャラクター達が病院の前で花束を持ってお出迎えし、その栄誉を讃え合う、という感動的なラストにした。

読み物としては、実に臨場感に溢れ手に汗握るものに仕上げたつもりだった。書き終えて満足したのを覚えている。

もちろん、落ちた。

お笑い芸人が結核で入院したという。
舞台でも楽屋でもまき散らしていたようだ。
別に当事者を責めるつもりはない。
また私自身も長生きがしたいから恐怖に怯えて申し上げるわけでもない。
しかしこれが元でパンデミックになるのなら、これは終わりの始まり。
感染による被害や明らかに感染経路が明確な際の責任問題。
この報道で上述の試験を思い出したんだ。

ただ、それだけだ。長々と失礼した。


■4月8日(水)

朝、娘の残したパン一欠け。
午前、『高齢者住宅必携』熟読。
昼、さんまの皮と骨(娘が身)、飯一口。
午後、書類作成、書簡二通。勤務実績報告。
夕、おっさんさんと痛飲。