第316回 調査依頼

 朝飯の青汁を飲みながら、僕は日課のあのワンフレーズを稽古してゐた。
 「にしざわつ、がくうえん」
 思ひ付いた時はなるべくうまく言へるやうに稽古する。心はパンナムの「表彰状」風にだ。何度も何度も稽古する。いつこの引き出しを開けなければならないか解らない。その「いつか」のために繰り返すんだ。
 「にしざわつ、がくうえん」
 嫁はんがパンをかじりながら、うまく行かずに小首を傾げる僕に聞いてくる。
 「なにしてんの?」
 胸を張り、小鼻を膨らませて言ふ。
 「ご存じ西澤學園、アダ・マウロ孃のモノマネだ」
 妻、鼻で笑ふ。
 「何を言つてるの!アダ・マウロ孃なんてもうおばあさんよ。今は二代目のはずよ」
 携帶では確認ができない。誰か調べてくれないか。あれだけ稽古してきたのに、すべてが無駄になつてしまふかもしれない。
 最後にもう一度言つておく。
 「にしざわつ、がくうえん」
 な、上手いだろ。
 
【陣中日誌】
朝、青汁。
晝、吉野家の牛丼大盛汁ダク。スタバアイスコーヒーショート。
夜、麻婆豆腐、蕎麥燒酎。