第315回 マグロ

 半年ほど前のことだ。料理屋に上がつてメニューをみた。グッとくる品名を見つけた。
 「マグロ三昧」 八八〇圓
 安い!安いんぢやないか!「マグロざんまい」なんて料理屋側からなかなか言へることぢやない。どれだけのマグロを食はしてくれるおつもりなのか?「ざんまい」だ、「ざんまい」だよ。
 唐揚げ、山掛け、ステーキ、丼ぶり…。マグロの樣々な調理法を試して食つて八八〇圓!うひよー!下さい、下さい、これ下さい!僕はメニューを強く指差し註文、うきうきして待つた。
 「お待たせしました〜」
 店のお方が運んできたのは、皿にマグロの握り壽司がたつたの三つ。
 「ん?三つだけ?」
 メニューをよく見ると
 「マグロ三味」だつた。
 「さんみ」だと!種類の違ふマグロを三つだけといふことだつた。
 「そりやさうだよなあ」
 溜め息とともに、ポイポイポイと十五秒で食事を終了した。
 
【陣中日誌】
朝、水。
晝、豚の味噌せうが燒。
打ち合はせ後にボルヴィック一本一氣飲み。
夜、蛸刺身、ビール。