第197回 玉葱掘り

 娘の幼穉園の玉葱掘りだ。平素の極道を挽囘する機會はこゝだ。
 今日はお迎へバスがないので、南港の幼穉園まで電車。到着。
 集合、園長のご挨拶。僕も玉葱掘りの意味がわからなかつたんだが、どうやら近所で趣味の農園をやつてゐる老人會が幼穉園兒に玉葱掘りを體驗させてくれるといふ。玉葱もゝらへるといふことで、休みにもかゝはらず子や親はワラ/\と集まつたのだ。
 畑に向かひ出發。といつても歩いて15分ほど。そして40人ほどの園兒が順番に2個づゝ拔いて行くといふものだ。そのうち1個はお土産、1個は來週の給食らしい。
 玉葱が土に半分埋もれて生つてゐるのを拔く。子等には少し力が要る。1人15秒で濟む。娘たちも樂しく拔いた。
 しかし僕の目的は別のところにある。哺育園から幼穉園に變はり、せつかく哺育園の先生たちとの間で育んだ人間關係を捨て去つた今、幼穉園の先生との新しい關係を再構築するのだ。
 大體、父さんが行くと「まー、お父さん今日はありがたうございます」と大歡待だ。
 邪まな氣持ちはないが、先生といふお若い娘さんたちとお話しするのは初老の僕には大きな喜びである。娘二人の擔任、マリエ先生、ジュンコ先生は、20代と思はれるきれいな方々だ。平素のお禮を申し上げたい…。今から行くからね。待つてゐてね。
 ところが、である。エマージェンシーの警告が鳴り響く。僕は園長の照準にロックオンされたのを感じた。マリエ、ジュンコ兩孃と行き歸りの樂しい會話を樂しまうと目論む僕に、園長が教育理念を聞かせて下さる。嗚呼、マリエー、ジュンコー。あゝあゝあゝあ。
 ほんでもって、行きかへり園長と散々にお話させていたゞいた。
 「面白いお父さんね」
 ありがたい話ではあるが、贊助の歸りのやうな粘つこい汗を流し、玉葱を2個下げた僕は娘たちに引かれて歸つていつた。
 
【陣中日誌兼戰鬪詳報】
金曜の晝、だるま屋。
金曜の夜、とんかつ、竹の子の炊いたん。

土曜の朝、拔き。
土曜の晝、玉葱とニンニクのケチャップパスタ。
土曜の夜、玉葱が澤山入つたすき燒き。