第137回 イヤな夢を見た

 思ひ出を語りたい。二〇年以前の古い話だ。
 一つ先輩の花の家ばにら女史(「凄い女」と異名を取つた豪傑。凄さの詳細は他日に讓る)が、何かにつまづゐてコケかけたことがあつた。バランスを崩して前につんのめつた、よくあるだらう。
 その時、彼女は學内全域に響き渡るやうな聲を發した。
 「おかつ!」
 
 直後から議論となつた。
 「一體『おかつ!』とは何か」と。
 僕と近隣年次の皆さんは當時の言論界の波紋を覺えておられるかも知れぬ。女史は議論が沸騰するや、事態の沈靜化を圖るため、以下のステートメントを公表した。
 「(略)この時の「おかつ!」は『お母さん!』の「おか」である(略)」
 事態は一氣に終熄した。
 しかし爾來二〇年、私はこの「おかつ!」の説明「お母さん」に疑念を抱き續けてきた。當時二〇歳を超えた女が母を呼ぶ…。しつくりこない。一體何だつたのか。今も疑つてゐる。近々三木市に赴いて問ひ質したい。
 突然で申し譯ないが、昨夜、現在のご職業たるナースの出で立ちで、僕の夢に出てこられた。勿論、淫夢ではない。
 落大運動會のときの餠を貪り食ひ、喉に詰めてカメラ目線で「おかつ!おかつ!おかつ!」と叫んでおられた。
 聲がやかましくて飛び起きたら、目覺まし時計の音であつた。
 この夢は吉兆か。はたまた僕の終りの始まりの徴か。讀者諸侯は激動の「陣中日誌」次號以降を期し給へ!
 
【陣中日誌】

朝、菓子パン、カップスープ(寫眞なし)。晝、廻轉壽司、あおさの味噌汁。晝不明。夜、吉鳥獨り會。