第128回 結局、熱は出なかつた

 「あんたつ!歸つて早々惡いけど、天寧が熱つぽいの!明日私、絶對休まれへんから一大事なのよ。シルクまで自轉車で藥買ひに行つてくれますかへ?」
 「よしつ、任しとけぇぃ!さういふことは男の俺に任してとけー。びやーと走る、走るでぇ。でも俺な、まだ今夜、晩飯喰つてへんさかい、火曜休肝ではあるが『緊急災害時』扱ひで、一合だけクッと…な、な、な、な」
 「何をいな?」
 「酒、酒。酒を一合をばクツと」
 「ラーハが北山かいな、カステラとかやつたらあるで」
 「カステラて。あのな、カヽカヽ、カステラなんか喰ふたら、スポンジ食べた時みたいに體中の水氣吸はれて、こつちが熱出すはい、な、な、な、な、な、な、な」
 「うむぅ…やむを得ぬ。許す」
 「あーり難き幸せぇい」
 大慌てゞ一合五六杓をグビと呷ると、階段を驅け下り、自轉車「シルバ號」に鞭を入れる。
 シルバ號と僕は脱兎のごとくシルクへ走る。空腹に酒とダッシュ。五合の酒に匹敵する。グワッと來た。
 閉店まで後五分。間に合つた。
 アンパンマン風邪藥と、戰利品のアテ數品を前カゴに入れ、高笑ひして夜街を家に向かひ疾走した。

 (歸宅後、アテ數品分は本部會計から否認された)
 
【陣中日誌】

朝、娘の辨當の殘り。
晝、廻轉壽司。もちろん寫眞のすべてを私が食べたのではない。
夜、上本町「あけの」で練習會後に親父と打ち合はせ。車なのでアルコール拔き。