第40回 月曜の法則

 この店は電波が繋り難いと聞いてゐたが、この時世に圈外とは恐れ入つた。後から來る人のために居所のメールを撃ちに店を出やうとしたその時だ。
 「亂坊!餃子はニンニク入りか、ニンニク無しか?」
 來舞兄さんの鋭い聲が背中に突き刺さつた。僕は虚を突かれてドアのノブに手を掛けた姿勢のまゝで凍り付いた。
 「ニンニク…か」
 店内の嬌聲が靜まり、燈が數段落ちたやうな氣がした。
 重大問題だ。 まづ翌日の日程を檢討した。社内以外の面會のアポはない。電話で濟ませるものばかりだ。クリアだ。繰り返す。業務日程クリアだ。
 次に一日の飯の一貫性の檢討に入つた。晝はマーボーラーメン(大)だつた。餃子…。雙方中華、ビンゴだ。危ないところであつた。晝にうどん定食ぢやなくて命拾ひした。一貫性はある、繰り返す。一貫性はある。確認だ。
 最後に家庭生活だ。平素の睡眠時、子供たちに軟禁されてゐる我が妻の救出を目的として、夜陰に乘じ妻の寢所に單獨潛入、我が寢所に奪還。素早く玉碎したのが…、二日前だ。といふことは、當分オペレーションはない!
 大丈夫か。見直せ。業務、一貫性、家庭生活、オールOKだ。繰り返す。業務、一貫性、家庭生活、オールOK!
 耳に店内の喧騷が甦つて來た。僕はドアのノブを囘しながら兄さんに振り返つて言つた。
 「ニンニク入りで!」
 兄さんはニッコリ笑ひ、深くうなづくと、店のをばちやんに聲を張つてオーダした。
 炒飯が美味かつた。安かつた。
 行かう。 店名 「をばちやんとこ」
 所在 南森町下車天神橋筋商店街北百m左側
 
【陣中日誌】

朝 大根とカブのシチュー飯(夕飯の殘り)
晝 廻轉壽司(アレー、何で寫眞ないかなあ、撮つたのに)
夜 自宅飯(鯖の片身燒き、ハリハリシーチキンサラダ、味噌汁、柳陰)

【卷頭付録】

青木君のモミアゲ例

【卷末補足】

日曜の晝飯の寫眞、場所がないのでこゝに掲載。