第30回 搜査本部長訓示

 取引先の人が攜帶を落とした。二ヶ月程前のことだ。夜に醉つて落とし、翌日の朝、電話會社に聯絡し電話を止めた。
 すると先月末に、普段は一萬圓いかない請求が五萬圓程きたといふ。電話會社に聞いたら、落とした夜に誰かゞかけたやうだ。夜中に二時間程。
 先は、中國四川省!これ、まぢの話アルヨォ。
 
 こないだ飮みに行つたとき、彼から話を聞いた。警察からは何の聯絡もないといふ。そこで僕に犯人搜しを依頼してきたのだ。いゝ人選だ。
 條件は、犯人を捕まへて、そいつから、四川省への二時間分の電話代を囘收、經費込みの取り半。着手金なし、出來高拂ひだ。しよぼい條件だつたが彼が不憫で手を打つた。
 犯人が高跳びすると面倒なことになるので、搜査計劃は詳細にはいへないが、四川省に二時間も電話するとしたら、内容の主題は九割以上の確率で「麻婆豆腐」のことだとにらんでゐる。それも表面ツラをなぞる話ではなくて、かなり突つ込んだ、麻婆豆腐の本質にかゝはる話ではないか。材料、火加減、時間、手捌き。電話でその奧義を受けたと考へるのが合理的に妥當である。推論に無理がない。
 そこで搜査は中華屋を中心に行はれることになるんだが、麻婆單品の注文では怪しまれる可能性がある。麻婆丼(大)が搜査目的をぼやかす良い注文となるであらう。
 そこで、皆さんにも搜査にご協力頂く。薄汚い中華屋、さほど美味くもない中華屋だったのに、最近妙に麻婆丼(大)が美味くなつた店を教へてくれ。
 私、搜査本部長自らが調べに行く。
 
【陣中日誌】

朝飯 娘のお辨當の殘り(天寧の動物園行)
晝飯 マーボー丼(大)相席なので寫眞が撮れなかつた。
晩飯 天神プロップで痛飮(記憶なし)
夜食 家に歸つてカップめんと子供燒き飯(記憶なし)