第24回 きつかけ

 入學式直後に、落大のブース前でかう言ひ放つたと思ふ。
 「落語しに關大へ來ました」と。
 …落語の事は全然知らなかつた。平良が持つてた仁鶴師のテープと枝雀寄席しか知らなんだ。關大赤本に載つてゐた落語大學の寫眞に高校時代の私は、大學生活の象徴として激しく憧れた。覗いてみたかつた。たゞそれだけでこゝへ來たのだ。
 その憧れの寫眞の人たちが今、眼前にある!赤本の寫眞は小さく見えにくかつたけれど、實際はアホな顏をした、いやアホなお兄さま、お姉さまたちが私を取り圍んでゐる。そして激しく言葉言葉を交はして、ゲラ/\笑つてゐる!
 「なんだこれは!」
 ショックだつた。亢奮した。後頭部がゾワゾワしてテンションが高まる!嗚呼こんなアホになりたい!
 その憧れのアフォな集團が私を飯に誘つてゐる!飯はタダだといふ。しかもこれから一年間ずつと!一錢も拂はなくていゝ!そんなアホなー。(裏聲でエコー)ホなーホなーホなー
 私は、晝食に定食物を頼んだことを覺えてゐる。そしてその定食の一品に揚げ出し豆腐があつたんだ。私は一口食べて驚いた。
 「なな、なんだ、これは」
 瞬時に落大のことなどゝうでもよくなつた。草深いところから出てきた私、外食も殆どしなかつた田舎者の私にとつて揚げ出し豆腐の食感にはたゞたゞ驚いた。生まれて初めての味だつたのだ。まぶたを閉ぢて味おうた。
 「はぅつ…、あゝぁ、くうぅぅつ、はぁ〜ん、うぅ、美味い!」
 豆腐が衣に包まれて、カラッと揚がつたところへとろみのある出汁。嗚呼。私は揚げ出し豆腐を食べ終はつた瞬間に決めた。
 「よし、私はこの部に入る」
 入部した。亂坊と名を付けてもらつてここに居る。あの時のメニューが揚げ出し豆腐で本當に良かつたと思ふ。揚げ出し豆腐がなかつたら、私の人生はもつと味氣無いものになつてゐたやも知れぬ。
 もう、揚げ出し豆腐樣樣だ。ありがたう、揚げ出し豆腐!揚げ出し豆腐よ、このご恩は忘れぬぞ。嗚呼、揚げ出し豆腐、揚げ出し豆腐様よ。
 
【陣中日誌】

朝飯 拔き
晝飯 中盛飯+卵燒き+鯖鹽燒き+鷄のから揚げとにんにくの芽(南森町食堂製)
夜飯 痛飮(寫眞が既に醉ふてゐる)