第19回 日本人の喜び

 下の娘は前、上の娘は後。そして私は死に物狂ひでペダルを踏む。
 自宅の住ノ江區から西區靱公園、或いは、橋を超えて南港フェリー埠頭まで。または堺の公園。ひたすら走る。
 背中のリュックには握り飯。親子三人分の握り飯。買はない。握る。炊きたてを涙流して握る。熱いから「うぉぉぉ」とか唸つて握るんだ。きつとクガタチはこんなのだと思ふ。
 中には具を入れぬ。混ぜものも邪道だ。芯まで飯。ぎつしり飯。手水を取つたら、「えゝ!?鹽、こない行きますのん?」 といふくらゐ手に擦り込む。そのまゝ一氣に全握力を架けて硬めに握る。俵型嚴禁、△だ。アルミホイルで全部を包む。
 娘たちが五月蠅いから海苔を持參するが、僕は海苔もいらない。飯が冷えるのを待つて食ふ。
 オカズは別ホイルに包む。子供用にタコソーセージとハム。僕はタラコをしつかり燒ゐたもの。または漬物。
 食つたら殘るのはホイルボール。キラ/\ボールで後で遊ぶんだ。陽光のもと冷えた硬い鹽のきゐた握り飯を食ふことは、僕の最高の喜びだ。ホカ弁なら凹む。

【戰鬪詳報】

朝飯 飯 鮭 味噌汁 サラダ(實家で)
晝飯 亂坊式お握り二個 ソーセージ お茶(寫眞なし 資料映像)
けんずい お握り三個 オカズ等(丹生川上社 寫眞なし)
夕飯 肉、秋刀魚燒ゐたん 根菜の炊いたん 飯(實家 寫眞なし)

【資料映像】

奈良新聞に掲載された宮本太鼓臺保存會有志の姿。
私は二人の向かうで寫つてゐない…。