第14回 二慾同居問題

 確か「酒池肉林」は殷紂が酒を池に澑め、裸婦を並べ酒を飮んだ故事からなりたる語だと古文の松永先生は云ひたるやうに思ふ。是れは現代語に直すと80年代末葉に一時流行つた「ファッションラーメン」其の物なり。又、其の繼承たる「ノーパンしやぶしやぶ」も其の類ひなり。
 余は此等を同じ系と看做す。何が同じか。其れは共に「食慾・性慾同居型」といふ一點にあり。余は此處に怒る。トップレスがラーメンを運んで何が嬉しきや。ノーパンの女性給仕者が肉を運ぶとは何事か。殷紂め、裸婦を愛でゝ酒を呑むとは酒飮みの恥辱なり。
 余は思ふ。「食と性の兩慾同居せず、かつ、すべきに非ず」と。食慾と性慾は共に學問上「第一次慾求」に分類されると聞く。此等を行つた店側の狙ひは理解できる。共に第一次とさるゝ原始的慾求なる食慾と性慾の雙方を同時に滿たす事により、顧客に最大滿足を提供せん事が目的ならん。
 なれど、同じ第一次にしても食慾と性慾は質が異なるにはあらざるか。食慾は己を保つ「自己保存的行爲」であつて、性慾は種を保つ「種族保存的行爲」なり。はなから目的が異なる。
 又前者は、虚ろに始まり滿たされて終はり、後者は、滿ちて始まり虚ろに終はる。虚滿の後先の異なる。

(店行く前)
…………………………。
(店行つた後)

 醉ふた。醉ひました。今宵、圓太九師の店で飮み既に爆飮酩酊。今日はもう考へる事ができぬ。まあ、早い話が同居させずして、先に食つてから行なへ、といふ事が言ひたきのみ。やゝこしいからね。食への冒涜だ、と言ひたいのだ。
 すまぬ。四つ橋線で書いてゐるが、醉ふと攜帶ではうまく書けぬ。斯くなる日もあらん。(なら書くなよ)