第13回 食に對する眞摯な心

 冷藏庫を開ける。前觸れもなしに開けるのだ。この行爲一つにより、その方の、とりわけご家庭ならば奧樣の、そのお宅での「食に對する心根」をある程度讀み取ることができる。
 食品が滿載で混然とした冷藏庫。ウチの實家などがさうだが、冷藏效率が惡いことは言ふまでもない上に、一體何がどのくらゐの量あるのか、或いは直近の消費期限切れ豫定物、また切れて買はなければならぬ食品や調味料を、スーパーなどで即答できない悲しい事態を迎へる。最惡は買ひ物から歸つて折角家着に着替へたのに、不足に気づきまた着替へてカナエや萬代に走らないといけないなどといふことになる。
 その點、整然と美しくシンプルな冷藏庫は、冷藏庫内の物品管理責任者が、週のお獻立に從ひ、必要物を必要量調逹してゐるので全く無駄がない。そんな家で飮んでゐると小氣味好く食品への誘ひがなされる。
 「亂坊、貝の味噌汁あるで」
 「亂坊、素麺ゆがゐたろか」
 「亂坊、朝飯できたで」
 実に幸せな氣持ちになれるのだ。
 ちなみにウチの家はシンプルだ。ほとんど物がない。在ればワシが食ふ。妻は週のお獻立を考へて買ふのだが、ワシは「腐らしてはならぬ」、「餘らしてはならぬ」と慌てふためゐて食つてしまふのだ。妻とはこのことでよくもめる。

【寫眞説明】

朝飯 拔き
晝飯 [秋刀魚、出汁卷き卵、味噌汁、大盛飯]584圓
晩飯 柳川、鯨のお化け、芋燒酎


【付録】卷頭カラー特輯

笑鬼師宅の冷藏庫内の樣子。
素晴らしく整つてゐる。
前述の食事攻めはこの家。

個人情報の眞髓である。各位取扱注意されたし。