第9回 代用食

 味の好みは遺傳す。
 お休みの日、とりあへず鍋に湯を沸かし、朝ご飯を考へる。
 此の時點で分岐は二つ。團子汁か茶鬻だ。
 團子汁に進路を取るとす。ナスビか白菜のどちらかとアゲさんをバサバサつと切つて炊いておく。而して先に味噌汁を完成させる。ボールに中力粉を二〜三百グラム。目分量で水。割とシャブめ。でも水を入れ過ぎると柔くてまづい。あかん、混ぜ倒すほど練つてはいかん!グルテンがヌチョヌチョとなり餠みたいになる。スプンで一口大にしてポチョン、ポチョンと浮かべる。バラ/\に入れないとくつ付くよ。すぐ固まり出すから鍋囘りにクルクル入るゝといゝよ。火が通りさうで沸く寸前に火を止める。熱いふちに食ふか、冷まして食ふ。温める爲に火を入るゝとどやせらる。温めるもんぢやない。
 岩手で食つた。團子が鹽辛かつた。傳統的に混ぜ物はせぬ。大分やせ馬團子汁は柔らか過ぎる。
 今でも實家に歸つて團子汁をすると兄弟で團子の奪ひ合ひとなる。妻は此れ迄の生活で、團子を一口丈食べたのみで其れ以來一切食はず。
 余が家では下の娘、まつ梨丈が食らふ。余同樣、粉もんが好きなやうだ。二人でご飯のなき時、ガツガツ代用食を食べる。余の戰後は未だ終はつてをらぬ。