第3回 新製品

 昨晩お迎へ當番だつた。うら若き保姆さん達は余を取り圍み斯く云つた。
 
 「お父さん!明日はお辨當で!お辨當は一段で!食べ易いやうにお握りで!」
 
 二階建てバスで遠足らしい。ほぉ、辨當か…。長い事作つて貰ふて居らぬが辨當もえゝ。やはり辨當といへば、昔、大工さんが持つてゐたタイガーの魔法瓶の如き太い辨當。男の辨當。あれが慾しい。
 知つてゐるだらうか、ご飯、味噌汁、おかずが蓋付の白い容器に入りて、三段に縱に入るヤツ。そんで以て外は黒、男の黒。ステンの縁取りか何かが入つてる。ご飯の容器はビッシリ入れたらドンブリ鉢一杯半ほど入る。ズッシリ入る。味噌汁は溢れんやうにピシッと蓋がでける。又、蓋が皿になる!おかずの蓋は一寸深め。出して呉れはつた薬缶のお茶とかが入る。而して是れ魔法瓶やから飯が温い!汁が温い!おかずが温い!是れを飯場や建賣の現場で地下足袋脱いで、AMラヂオ聞き乍、夕べの飛田の話なんかして食らふ。ああ辨當最高ぢゃないか。
 でも余が如き仕事には持参でけぬ。しかし、まてよ。先生言ふてたなあ。
 
 「お辨當は一段で!」
 
 はっ、別に縱に三段つまんでもえゝやないか。ご飯、味噌汁、おかずを薄い四角の三つの箱にして並べて入れたらは? 外見は「アタッシュケース」。矢張り外は黒、男の黒。ステンの縁取りは外せんわな。鍵も付けよ。飯はビッシリドンブリ鉢一杯半。ズッシリね。味噌汁、おかず。完璧や。而して是れが魔法瓶!バッと開けたら一面が辨當。他何もなし。ペン差し丈付けてもえゝな。
 霞ヶ關、梅田、ニューヨーク。全てビジネスシーンにマッチする優れ物となる。激動の現代社會を戰ふ企業戰士の必須アイテムとなる事請合ひだ。