第1121回 世紀の大実験

 娘の理科レポート指導を妻から厳命された。
 シャープペンの芯と、ティッシュと、アルミ箔で、2ボルトLEDを点灯させろ、とのことだった。
 「何を言ってやがる、夢でも見ているのか。そんなもんで発電できるなら、コクヨ大王製紙は一気に関西電力を凌駕するパワーサプライヤーになっちまうぜ!」
 僕は、馬鹿なことを言うなと家の女どもを罵りながら、色々な実験案を検討してみた。
 考えてみれば簡単そうだ。シャープペンの芯とアルミ箔で、明かりを点せばいいんだろ。
 
 【実験案1】
 まず、シャープペンの芯をアルミ箔でワイルドに包み込み、上下に激しくしごく。一生懸命しごき倒すと、僕の額にほんのりと汗がにじみ出る。その汗を妻がやさしくティッシュで拭いてくれる。僕はにっこり笑って、家庭に明るい愛の灯が点る。
 
 【実験案2】
 シャープペンの芯、アルミ箔のこよりを、コンセントの豚鼻の左右に突っ込みショートさせる。その火花をティッシュに燃え移らせ、カーテンに引火させれば、マンション一棟に延焼させることなど造作もないことである。
 
 案の1、2は、愛と惨事の両極端で非常にエキサイティングではあるのだが、いかんせん、LEDが点っていない。これでは実験の本質に迫れていない。また理科レポートを頼まれているんであって、エロ小説風情や犯行の調書のようになってしまう。小学3年が取り組むには難易度が高すぎる。
 
 とにかく実験材料を買いに行った。LEDは赤、テスターも買った(これが高くついた)。
 ネットで調べるとこれは「ボルタの電池」の原理を利用して、食塩水を媒介にして、アルミ箔の電荷をシャーペンの芯との間でやりとりさせて電流を流す、というものらしい。
 きっとその「ボルタ」というおっさんも、娘の宿題で無茶言われて、ああでもない、こうでもないとやってるうちに発見したんだろう。
 
 シャーペンの芯をティッシュで包み、飽和食塩水で浸す。アルミ箔をティッシュの上から芯に触れぬように小さな巻き寿司みたいなのを6本作る。
 芯がプラスで、アルミ箔がマイナスとして、この6つの巻き寿司を直列つなぎにして、LEDをつなぐと、あーら不思議。LEDがほのかに点灯した。
 テスターで計測すると、不安定だが0.5〜1ボルトぐらいの電流が流れている。
 「どうだ!すごいだろ!」
 「わー、お父さん、すごーい」
 家族で部屋の電気を消して、明かりを見つめる。LEDはほのかであるが、父の威厳は燦然と光り輝いた(ように思った)。