第1119回 日常生活に戻る

 そこはかとなく寒い。建国記念日の11日は、朝からの降雪が酷くて、道を行き交う車はみな頭を真っ白にして白髪爺さんの行列の様相を呈していた。
 僕は車で走って雪化粧した街を眺めながら、ふと思い浮かんだ「ホワイト建国記念日」という言葉が妙に気に入って、独りで車中でほくそえんでいた。
 ホワイト・クリスマスな感じだ。「建国記念日」という硬派な単語に、ただ「ホワイト」を付けるだけで、一転、恋人たちの聖夜みたいな薄ピンクなラブラブの香りがしてくるではないか。
 学生のころ、琵琶湖畔や淡路島の安ペンションなんかを、付き合い出して数カ月の彼女と友人の2カップルで予約して、雪景色を見ながら安っぽいディナーの前で嬉しげに安ワインで乾杯した、あの頃を思い出すじゃないか(ねえ、来舞さん)。「ホワイト」の一語がつくだけで、たとえ建国記念日でも、二人の間に揺らめくキャンドルが見え隠れしたりする。
 ま、建国記念日であるからして、恋する全裸の二人の頭部には「八紘一宇」と染め抜かれたハチマキが巻かれていないとしっくりこないが。
 
 14日がバレンタインデーであることを思い出したのは、前夜(即ちバレンタインイブ)に娘たちが台所をチョコだらけにして、小さなハートのチョコを作って、呉れた時だった。
 「明日14日は午後から雨かも知れんたい」と妻が言った。「降らんければよかねー、雪じゃと冷たかけん嫌じゃー」と彼女は言う。僕も降られると困る。自転車者に雨や雪は災厄だ。
 
 だが、ちょっと待ってほしい。バレンタインデーというのは実に恋人たちの聖夜である。「バレンタインデー」>「ホワイト建国記念日」くらいの底力を持っている神聖な夜だ。
 そのバレンタインデーが降雪0であったり、雨降りだと「ホワイト」を付けることはできぬ。
 「ホワイト」にあらずんば、対概念として「ブラック」が冠されることになるは必定。「ブラック・バレンタイン」だ。邦訳すると暗黒のバレンタインデーと相成る。ブラック・コンティネント・アフリカが暗黒大陸アフリカとなるが如く、黒魔術の黒である。ブラック・バレンタインデー。一機に怖くなる。
 白黒で黒白を付けようとするから話がおかしくなる。「ホワイト」の対概念は他にないか。もう少しおめでたい感じにしたい。そうだ、紅白なんかが良いかも知れない。
 赤いバレンタインデー、レッド・バレンタイン。これはちょっとゴロが悪いので、「ブラッディー・バレンタインデー」に変えてみよう。
 するとどうだ。血塗られたバレンタインという華やかな色彩が加わるじゃないか。13日の金曜日血の日曜日事件やソンミ村大虐殺を髣髴とするスプラッタホラーや大量殺戮現場のような凄惨なイメージになる。
 と、思っていたら、大雪になった。ホワイト以外考えなくても良くなった。ホッとした。