第935回 才能に満ち溢れた私

 私は自分の才能が恐ろしい。まあ、聞いて欲しい。これまでも書いたと思う。通いだすと店が閉店するのだ。
 この能力に気づいたのは、落語大学の先輩が営む店を三店破壊した時だ。堂山町「夢通り」、天王寺「訥庵」、西宮「円太九」を順に通い倒して閉店に追い込んでしまった。
 もちろん暴力をふるうのではない。私達が通いだすと、落大関係者らが山のように連日入り浸り、店主は他のお客様そっちのけで落大や落語の話に打ち興じ、まるで落大サロンのような状況になってしまう。
 すると、一般のお客様にすると、何やわからんが連日、落語好きな奴らがワラワラ集まって、落語の話で涙流して語り合ってる。またその面子が皆アホみたいに声がでかい。一般客は普通に話が出来ん。店主の一般客への応対もおろそかになる。
 そして、これが一番問題なんだが、先輩である店主達は、長時間座席を占有し親の敵のように狂人の如く痛飲する我々がどれだけ飲み食いしても、
「んー、1000円でええわ」などという意味不明な不明朗会計で無罪放免するものだから、その手軽さにまたまた皆が集まる、という今風に言えば「負のスパイラル」に決まって陥るのだ。
 我々が名店三店を呑み潰して、次に白羽の矢を立てたのが、G風君推薦の上本町小さなバーだった。ここも通いづくめに通って約一年余りで陥落させた。またやってしまったと自分の能力を恐れるようになった。
 その後は店をつぶすのが恐くて、めちゃな通い方は控えた。この控えていた期間のうちに私達の能力は研ぎ澄まされていたのだろうか。
 
 去る3/21に千林大宮の伝楽亭に出演し、お客様で来ていた地元千林の産の女性(仮に以下「アビチャン」とする)に共演した笑鬼会長と軽く打ち上げる立飲みはないかと聞いた。
 アビチャンは電話で母上と相談した後、ある酒屋の立飲み部を紹介してくれた。私達はその店で気懇快に呑んだ。
 先週、別件で彼女と面談した折、第一声アビチャンはこんなことを言った。
 「乱坊さん、うちのお母さんから電話がありまして」
 「はい、何でございますか?」
 「今度、千林で呑む時は店を変えなあかんでって言うといて、ちゅうて」
 「なぜですか」
 「乱坊さんと笑鬼さんが行った翌週に、あの立飲み部は閉店しました」
 
 一撃だ。もはや偶然ではない。才能である。かといってこの才能を鑑みると、家酒も恐い。