第791回 福田和子然

休憩時間。土工さんと話してた。自分のことは何もカミングアウトしていない。汗を拭いてアクエリアスを飲みながら、タクシーの話などをしていた。僕はかねてから暖めていた「大富豪タクシー」の話などをしようと身構えた。切り出してみた。
ワシ「タクシーの運転手さんにはホンマに面白い人が居てますなあ。私も昔、タクシー乗ってた時に…」
言わずもがな「タクシー乗ってた」のは、客として!だ。当然だろ。
すると目の前の土工さん―彼は私に興味があるかしていつも休憩にはそばに来はる―が間髪入れずに私の言葉尻を取った。
土工「せやろっ!ワシせやないかなあと思てたんや!兄ちゃん、昔、タクシー乗ってはったやろ。(同僚の土工に)ほれ見てみぃ、こないだワシ言うたやろ。この兄ちゃん絶対、元タクシーの運転手さんやて、な、な、な!」
ワシ「…あ、いや…」
土工「隠さいでエエがな。親戚にタクの運転手おんねん。兄ちゃん乗ってはる人特有の匂いするねん」
ワシ「いや…、私、タクシーには…」
土工「実な、ワシの甥のアキヒロ、まあ兄ちゃんら知りはらへんやろけど、あれ五年ほど前から尼崎で個人タクシー乗ってんねや」
同僚「おい!アキヒロて、あの不動産屋行てたアキヒロちゃんか!」
土工「せやっ!兄ちゃん、アキヒロに喋り方やら何やらよう似てんねや。生き写しや。ワシはピンと来てたで、兄ちゃんは、アキヒロの、生まれ代わりや、て」
同僚「アキヒロちゃん死んだみたいに言いないな」
土工「元気にしとるけどな。…ほで兄ちゃん、差し支えあったら言わんでええけど、…どこ乗ってはったん?MK?三菱?日本?協同?どこや?」
ワシ「いや、私、別にどこにも乗ってませんて」
同僚「ははーん、会社やないということはやっぱり個人タクシーや」
土工「ほれみてみい。ドンピシャや。言うた通りや。アキヒロと一緒や!ほで、兄ちゃん、大型か中型か小型か?車は何乗ってはったん?どの辺流してはったん?」
彼がやつぎばやに聞いてくるので、だんだん面倒くさくなってきて、僕は適当に知ってる話をつないで話し出した。
全部現場の向かいの仲良くなったタクシードライバさんたちからの受け売りだ。
「流しは仕事のできないエクスキューズです。僕はタクシーではありません、ハイヤーです(アチャー、俺適当なこと喋ってるよー)」
・上本町に居たが、ほとんどは電話で予約受けて迎車で行くから(ハイヤーね)、空き時間は少し並んだりするけど流しはしない。
・流しても燃料の無駄
・不動産からタクシーに流れる人は多い。道をよく知っているから。
・小泉の自由化で料金がバラバラになったが私は昔の価格を死守した。
・でも台数が増えて客よりタクシーが多い状態では、客待ちしたり流しても子供を学校に行かせられへん。
・ワンコインでガンガン価格下げてくるのは囲い込みの顧客がいない流しの悪あがき。
・5000円以上半額にはしたがメータがちっともあがらへんから遠いのは行きたくない。雇車で神戸三本行ったら日当はでる。
・いっぺん送ったお客様にいかにリピートして貰うかが勝負。
適当に色々喋ってこれで休憩時間の45分を持たせた。
土工「今度、アキヒロに会うて!ほで言うたって!アイツ流してばっかりおるねん。兄ちゃんの話聞かせたって!」
目を輝かせて言う。
「高いですよ」
「ホルモン一回おごるがな」
「仕方ありませんね」
やばいな。ホンモノに会えば嘘なんかすぐばれる。もうこの現場も潮時だ。
福田和子の気持ちが少し解った。