第744回 風庵寄席行

土曜、第一小隊は阪神前に午前九時。香芝で十時に全軍集結。
参加者は、笑鬼師、やん愚師、来舞兄、こゆき君、烏龍君、おうむ君、一福君の各位。らいむ師は風庵現地集合と相成った。
十一時半、風庵着。きー母さん父さん、無眠師、きよきよ大姉、どん太師らにお迎え入れられる。他現地お手伝いスタッフの皆様総出の昼食準備。後から栄歌師ご到着。みんなで寄席準備。大衆演劇の一座の雰囲気。栄歌師、無眠師のご尽力に感謝。
昼食、カレーライス。夏合宿状態。
リハ。リハはリハーサルに非ず、烏龍君のリハビリであった。司会、烏龍君。彼、復帰に向けての今般の大抜擢である。彼はきちんとネタを作り準備は整っていた。ネタも繰っていた、が噛み噛みだった。リハは仕方がないだろう、彼の本番に期待した。
天候は風雨台風の様。しかし七十人を超えるご来駕を受く。地元の皆さんの律儀さときー母さんの奮闘の賜物である。
午後二時、第二十九回風庵寄席、関大落研OB寄席「落語大学の愉快な仲間たち」開演。
「はいっ、えー」烏龍君の声の調子が変だ。上ずっている。本番。チュウインガムなら形なきまでに液状化してクニャクニャになるほどに彼は噛んで噛んで噛み倒した。下座はずっこけ、ひっくり返りまくったが、彼はお客様に落語大学の基礎知識をお伝えするべく頑張ってくれた。
お茶子、なお吉女史。繁盛亭で座布団返す本物だ。やん愚師が二の腕を触る。アメリカなら確実に終身刑だろう。
下座の面々、三味線やん愚師、こゆき君、一福君、太鼓おうむ君、笛栄歌師による。客席には無眠師、きよきよ女史が最前列かぶりつきで閻魔帳に何かを書き込んでいる!無眠さん、何、鉛筆舐めて書いてるんですか!
トップバッターは我らが笑鬼会長、道具屋。枕からお客様と周波数同調。好調な滑り出し。が!フワッと一瞬どっか(南鳥島あたり)へ逝かはった。帰って来るのにアンチョコ使用。下座顔を見回す。しかし暖かいお客様をよりホットに加熱して下さった。
二番手、今回の寄席の実施において重要な役回りを演じて下さったらいむ師野ざらし。企画時から演者のモチベーションを上げることを狙い「大学寄席の意気で臨もう」との合い言葉を頂く。かつまた寄席全体を鑑みて出番をここにお回り頂くご英断を下された。
ガンガン押しまくる張りまくる最高の二番手の本領発揮。野ざらしにおいても今まできづかなかったいろんなことを舞台から教えてもらう。
お客様はもう口を開けて全てのパンチラインに食いつこうとする獰猛さ。客席は一気に沸点に達する。
一点だけ質問。「年を取っても浮気は止まぬ、止まぬはずだよ先がない」の言い切りでドッカンである。今風に書くと「先がない(爆)」である。言い切りでバシッだ。
のりや言い方、表情で笑いが誘発されたのでは、絶対にない。確実にお客様は「意味」で笑った。笑いが言い切りの一点に集中した。意味以外に考えられぬ。皆が反省会で様々にその意味を考えたが、このドッカンの意味付けができない。(老い)先が短いから浮気が止まない理由が分からん。男は常に浮気するもんと決まっているから、残された人生が短ければなおのこと浮気をする、ととれるが、他に意味があるのか、何かにかかっているのか。この解釈がお客様に全員瞬時に意味が伝わったのか。瞬間に理解されたのか?本件解決は後日に譲る(助けて、落研の人!直接話法研究会より)。
中とりに来舞兄、船弁慶。この人は完全に復活された。恐●家の兄の真骨頂、殊に酒を飲んで酔うた喜六は秀一であった。
このお噺をするためにこの人の人生、酒、恋愛や結婚は在ったと考えてよい。人生を側で共に併走すると自認する私は、下座から除き見る熱演に舌を巻く。仲取りの重責を見事果たされた。いつも私ら兄弟をご指導頂く各師らも復活をお喜び頂くご様子。人物、感情、運び、間、勢い − 。テクニカルではない何か、型にはめられ潰れた昔とその後の模索を経て追い求める、落大が慮るものの在り方を軌道を同じくせんと後を追う私に身を以てお示し頂いた。私は兄の弟であることを誇りに思い、将来にわたり慕い歩く弟でありたいと強く願う。
中入。
烏龍君による中入りご案内と中入り休憩後の演者紹介。もはやスルメも根昆布も、否、木片はおろか鉄片までもを粉微塵に細断してしまいそうな彼の噛みよう。彼の舌を憂う、切り刻まれぬかと。ここまでくるともはや芸術の粋である。
終演後の彼の感想「だって、だって、お客様全員が、ぼ、僕を見てるんですものっ!」。当たり前だ。
彼の再出発の記念碑的位置付け。彼の再興の発端の私は生き証人である。彼は暫くしたら目にも目映いオレンジの着物に身を包み落語で舞台に上がることが決まっている。また今後の寄席で司会の依頼を受ける事も多くなるだろう。あれだけ下座を沸かす司会は居ない。
食いつきもたれ、やん愚師による代書。鉄板鉄板。笑いを待つ間でそこはかとなく長くなる。減りどめを買ってはならぬといさめる川井に代書屋が「買わへん」。ここの代書屋は宇宙からの電波に操られていて、下座に控える私の笑い声はきっとビデオに入っているだろう。
ここでご忠告申し上げておく。「私らクラスになると」のフレーズは私の所有権である。多用されると困る。「ええ意味で」もだ。私の前の出番でそれをやられると、実に困る。やめてください。
この辺からお客様自体に客席と舞台の区切り目がなくなってこられる。彼我同一の境地。やん愚師の「一行抹消」や、はてなでの陛下の御筆による箱書きの「はてな」は舞台と客席の合唱となる。
乱坊はてな大衆演劇(やん愚師談)から真の直接話法研究会として、なるだけ臭さを削り落としてお客様とともにお噺の流れ、後半への盛り上がりを舞台で楽しむ。
舞台で思う。たった一つの茶碗が織りなす出会いと機会。ここ一点が勝負と全力で全てを投げ打ち交渉に当たる油屋の背水の陣の気迫、そして彼がそうだからこそ、それに応えて親をも慮って後代に機会を与える茶金の懐の深さ、本人の居ないところで事がトントン拍子に良転していく幸運。全ての出会いが、全ての交渉がこの一戦かも知れぬ。それだけ気を入れて生きているか。油屋を演じていつも思う。油屋よ、君に教えられることは実に多いと。
落ち前、一瞬ちょっと上野駅の駅前くらいまで気が飛んだが、臭いのは極力減らして舞台を降りた私にやん愚師は一言でご批評を下さった。

     「まだ臭い」。

終演、片づけ。さるびの温泉。喉がゴロゴロ言う。酒だ、酒がないと死ぬ。
マイミクの舞台関係者の総意をここに記す。舞台が終わると猛烈に欲しくなるのは酒と肉だ。私は常々はばかることなくそれを表明している。皆も異論はあるまい。まあ肉にはとんと縁がないが。舞台を降りて緩和した気持ちをほぐす象徴的な行為が酩酊だ。
皆さんによる心尽くしの手料理で一杯一杯もう一杯。お帰りになられた方も居たようだが、余り覚えていない。本年度最高の酒宴となる。
翌日日曜日、朝6時から寝床でビシッと来舞兄と二人で酒6合を決める。ほろ酔い。
朝食、大きなテーブルを囲みみんなで。こんな家族でこれが本業、こんなメンバーなら大衆演劇かなんかで全国をどさ周りするのも面白い。いやこのメンバーでどさ周りするの「が」いい。
きよきよ大姉のオカリナを聞いてじんわり。烏龍君指導の元広間でフィットネスしてじんわり。
帰る前にさるびの温泉。昨日お客様としてご来場であった職員さんに、人生で初めて色紙にサインを求められる。皆で寄せ書き。曰く「この温泉に写真付で飾っときます」と。
…さるびの温泉は、草津、指宿、熱海、登別などと比べ物にならない素晴らしい温泉である。泉質、施設、人情、職員さんのどれをとっても申し分がない。人として生まれた限りはさるびの温泉に行かないのは、日光を見ずして死すると同じだ。1億2000万の日本国民は須くさるびの温泉に向かえ!(以上、広告でした)
お客様、スタッフ、演者皆々様に深く感謝。合掌。
脚註 本文中の●は「妻」。紛争回避のためMIXI事務局の判断で伏せ字に変換されました。
参考文献 無眠師著「閻魔帳」
 
 
日曜日、第2小隊と別れた第1小隊(笑鬼師、来舞兄、一福君、乱坊)は、一福君を自宅に送り届け、いったん服部の御本宅へ向かう。兄の帰宅の云々は、ある意図を以て記述から省く。これが紛争の種になると困る。願うは各ご家庭の平安だ。
私は3時からの本願寺派の集会での「はてなの茶碗」に赴くため御本宅にて待機した。師にお送りいただいて楽屋入り。お坊様、門徒衆らおよそ60名。打ち合わせで花の家はすきのことが新聞に出ていたと話題になったので、はすきがらみで古典的大阪弁でロシアの日本語界を大混乱に陥れることが我らの目論見であることをちょっと喋り、業の肯定に触れ、出会いとご縁の大切さから「はてな」へ。
前日のやん愚師のご遺言を胸に刻んで一歩一歩進む。お寺はいつもそうだが、ご本尊に尻を向けないので左右に舞台がずれる。上下の切り方が難しいよね。出囃子のCDもなんか本堂にそぐわないと思ったので司会の方の紹介だけで出た。男の方ばかりなのでしんどいかなあと思ったら、結構聞いていてくれて思惑通りにご反応いただき感謝した。
私はいつも舞台に上がるとき、思わず知らず「ありがとうございます」と合掌する癖があるのだが、お坊さんたちは何か喋るとき必ず手を合わせてお話しされるので、なんかパクられてるような気になった。ゆっくり考えるとあちらが本物である。私がパクっているのだ。
ありがとうございました(合掌)
帰ってワンカップの焼酎で独り打ち上げ。