第297回 數珠返せ

 天寧のピアノ發表會が終はつた。僕は行けなかつたが彼女はお客樣の前で「子供の歌」を獨奏した。
 自宅では時間の許す限り稽古に付き合つた。
 だいたいウチの子に音樂的才能があるはずがない。しかし機會あつて藝事に觸れるのであるならば、彼女がこれからの人生でみるであらう華々しい舞臺の裏に、學僧のやうな地道な努力があることを知つて欲しい。
 才能のある奴の前では、僕や彼女の努力など粉微塵に吹き飛んでしまふ。でも自分や仲間たちが、努力や積み重ねで本人自身を越える力を本番に出せた時、感じる神聖で尊い氣持ちや驚き。彼女にその機會を。
 數珠を貸した。パーツを、通しで玉の數だけやりなさい。
 
 發表終はつたんだから、返してくれ、數珠。葬式行かんなんし。
 
【陣中日誌】
朝、じやこ飯、ソーセージ、卵燒、ハム、レタス、ぶどう。
晝、ラーメン(みーちやん)。
夜、角屋。