第252回 お輕と(オカルト)

 「私、見えるんです」
 かう言ふと大抵の人はグッとこちらの話に集中して下さる。例へばある人の家に行つた時の話だ。
 「部屋のあつちの隅は見ない方が良いですよ。日露戰役當時の軍服を着た陸兵が敬禮して立つてゐますから」
 より具體的に言ふのが親切だと思つてる。
 話してゐる相手の方は、僕が指をさした方を顏はなるべく向かない、でも目玉だけはしつかりとその方を向くといふ、實に不可思議なお顏をされる。もちろん、恐怖にをのゝゐてだ。
 「また/\あ、亂坊ちやん、冗談言ふてぇ」
 僕も相手の方も少し笑ふ。
 「はゝは、見えるんですつてー、本間やからねー」
 できるだけ冗談ぽく言ふ。そしてサッと話を變へるんだ。
 今日は診斷で市民病院に來てゐる。こゝは戰後に出來た病院なので、着物や兵卒の姿が極端に少ないのが特徴だ。
 
 …まあこれは嘘、嘘です。見えません。
 でもマイミクの奧樣で、ホンマに見える人居てはつて、あるウチへ行つたら、
 「このウチ、居てるつ」言はれた時は引きました。
 
【陣中日誌兼戰鬪詳報】
朝、青汁。
晝、王將皿うどん
夜、にんにく肉、鯖煮込み、ひぢき、飯。