「私、見えるんです」
かう言ふと大抵の人はグッとこちらの話に集中して下さる。例へばある人の家に行つた時の話だ。
「部屋のあつちの隅は見ない方が良いですよ。日露戰役當時の軍服を着た陸兵が敬禮して立つてゐますから」
より具體的に言ふのが親切だと思つてる。
話してゐる相手の方は、僕が指をさした方を顏はなるべく向かない、でも目玉だけはしつかりとその方を向くといふ、實に不可思議なお顏をされる。もちろん、恐怖にをのゝゐてだ。
「また/\あ、亂坊ちやん、冗談言ふてぇ」
僕も相手の方も少し笑ふ。
「はゝは、見えるんですつてー、本間やからねー」
できるだけ冗談ぽく言ふ。そしてサッと話を變へるんだ。
今日は診斷で市民病院に來てゐる。こゝは戰後に出來た病院なので、着物や兵卒の姿が極端に少ないのが特徴だ。
…まあこれは嘘、嘘です。見えません。
でもマイミクの奧樣で、ホンマに見える人居てはつて、あるウチへ行つたら、
「このウチ、居てるつ」言はれた時は引きました。
【陣中日誌兼戰鬪詳報】
朝、青汁。
晝、王將皿うどん。
夜、にんにく肉、鯖煮込み、ひぢき、飯。