第193回 いつもアンタのことを見てゐたけれど

 いつもの酒店立飮部

 「お醤油を取つてくれてありがたう。お邪魔でなけりや、少しくお話、物語しましよ。私は六十。六十歳で高卒です。いや實はこの春、高卒になつたんです。三月に定時制を卒業しましてね。嬉しくてね。ずつと水商賣やらドヤにゐて、いろ/\あつたんやけど思ひ至つて四年間、仕事のあとのお酒も控へて勉強しましたんや。卒業してちよいちよいこの店に來る樣になつたんやけど、あなた(最近この店に降つてきましたな)と出會ふのもこれ何かの御縁でありませう。私の卒業祝ひと思し召して、高校時代のお話聞いてくれますか。」
 友逹やら先生、數學、體育、技術家庭、定期試驗。 熱を入れて話してくれた。じつくり腰を据ゑてをぢさんと立ち話した。
 僕は立飮部では、いつもあまり喋らない。 ひとり靜かに飮んでゐる。自分のキャラクタに疲れ果てゝ、精神の平衡を保つために行くんだ。別人だ。少しシャイで、完全な聞き役だ(想像出來ないだろ)。
 いつもは五百十圓で颯爽と歸るんだが、千二百圓もお付き合ひした。もちろんをぢさんとは割勘だ。
 をぢさんとの月曜定例であつた。
 
【陣中日誌兼戰鬪詳報】朝、昨夜の味ご飯殘り。晝、カプリチョーザペンネアラビアータ。夜、いつもの立飮部で芋ロック二杯、おでん(豆腐、卵)、たまねぎのてんぷら他、自宅で味ご飯ラスト、鳥と筍の炒めもの(昨夜の殘り)をフィニッシュ、キュウリと鳴門のサラダ、紹興酒一杯。