第121回 女は機會だ

 僕は、本當に煙草をやめたと言ひ切つて良いのであらうか。
 取引先の男(こいつは僕に禁煙を勸めた男だ!)が言つた。
 「最近、煙草を始めたんですよ」
 理由を聞くと、彼に彼女(婚外)ができたらしい。その女が喫煙家で近付くとヤニの匂ひが氣になつて「仕方なしに」吸ひ始めたのが切つ掛けださうだ。
 「『女』が君に煙草を吸はせた『機會』か!」と彼に流行りの言葉を一字違ひで叫んだ倫理觀については、他日お叱りを頂くとしても、僕が今日以降、如何なる理由をつけて煙草を吸ひ出すやも知れぬ。
 大丈夫なのか。誘惑は多い。酒席の多さ、職場環境。(事務所の下に日本たばこの營業所があるんだ!)
 實驗開始だ。かつて吸つてゐた銘柄を買つてみた。三百圓もした!一本取り出した。咥える。震へる手でライターの火を燈す。煙草の先に火を付けた。懷かしい香り。肺に送り込む…。
 「オゲェー(40囘繰返し)」
 な、なんと苦しい、胃液が大量にあふれ出す。クラクラする。もういらん。もう二度といらん。近くにも寄つてくれるな。消して十九本入つた箱ごと捨てた。禁煙成功だ。實驗終了。
 
【陣中日誌】

朝、娘の辨當の殘り。
晝、ミスタードーナッツ(寫眞なし)。
夜、痛飮(つばさ記者からの投稿)。鷄の唐揚げと、兵庫の西宮の圓太九さんの孫つ。