第114回 【警告】サタンは身近にあり

 原告として證人訊問の日が近い。親父が出る。辯護士と證人各人への質問内容の吟味、反對訊問の想定問答。本番まで週一で稽古してる。いつからか「練習會」といふ名になつた。
 内容の檢討吟味がほとんどだが、耳慣れた言葉も飛び交ふ。「長い」「早い」「霸氣がない」「くどい」「整理して」−。夕方から四時間。終はるとへと/\だ。
 「はい、お疲れさん」
 「おい、食事行くぞ」
 「…あかんあかん。いかれへんいかれへん」
 「何でや、嫁はん恐いんか」
 「…飛び石やねん。中一日開けや」
 「何わけの判らんこと言ふてるんや」
 「…しやないなあ。ほな、こゝらやと…『をばちやんとこ』行こか」
 「誰や?」
 「いや、店の名前が『をばちやんとこ』や」
 「やゝこしな」
 「せやけど僕は飯食ふだけやで」
 
 店の前で
 「兄ちやん行けるー?」
 「あー、すんません、九時で終はりですわー」
 「あかんがなー」
 「お前、他、店知らんのか」
 「ほな、あこ行こか」
 「ほはう、今度は『あこ』ちゆう店やな」
 「ちがふちがふ、藤代さんとこや」
 「これまた長い名前やなあ。『藤代さんとこ』か」
 「もう邪魔臭いわ。それでえゝわ」
 
 カウンターで、親父
 「燒酎湯割り梅入れて」
 「んゝんー……。燒酎ロック、芋で(キッパリ)。」
 「わが息子ながら意志弱いなー。乾杯!」
 「酒卑しい血を受け繼いどるわ。彌榮!」
 一日、日延べした。
 
【陣中日誌】
朝、辨當の殘り。
晝、秋刀魚鹽燒き定食(難波一膳飯屋)。
夜、秋刀魚鹽燒き、卵ご飯、二合(妻のエスパー發揮の日)。