第98回 太る弊害

 最近、よく言はれる。
 「この間は弟さんにお會ひしましたが、弟さんはお元氣にしておられますか」と。
 よく/\話を聞いてみると弟ではない。數か月前の僕のことである。
 人間は大小太細によつて兄、弟を認識してゐるやうだ。タバコを止めて太る前の僕を弟、太つてからの僕を兄と稱してゐるらしい。ふざけておられるのではない。大まじめに言つておられるのだ。
 初めの頃は、
 「いや/\、兄弟やのうて、 同一人物。同じ人。太つたゞけ。ユーノー?」
と、きちつと説明してゐたが、最近、そのやうな問ひ掛けが多くて一々應へるのが面倒臭い。次のテンプレをアレンジして應へるやうにしてゐる。
 「えゝ、弟はマダガスカルの油田の掘鑿で一山當てゝ、今、その資金をもとにタイタンの開發に力を注いでゐます」と。
 すると大方の皆さんが、
 「あゝ、木星の衞星ですか!そりやぁ、すばらしい!頑張つて下さるやうにお傳へ下さい」
 眞顏で感嘆される。早く嘘だと氣付いて慾しい。
 この調子だと二人ゐる本物の弟のどちらかを本當に衞星に送り込まなくてはならない日も近さうだ。全く、宇宙時代が到來したなと感じる。

(この項、酩酊により意味不明)
 
【陣中日誌】

朝、お鬻。寫眞なし。
晝、A定食(厄祓いの歸り)。
夜、すき燒き。