第93回 お腹一杯

 もうお腹一杯だ。みつちり見た忠臣藏が胸燒けしてゐる。當分見たくない。
 年末年始は實家でゐた。おせちの準備、お祝ひなどをしながら、時代劇專門チャンネルの忠臣藏特輯を見たのだ。映畫は東映、松竹、大映、東寶、テレビドラマはNHK、大河、關テレ、テレビ朝日、日テレ、テレ東、TBS、フヂ…。各局物。僕は、俵星玄幡を三船敏郎がやつてるヤツが好きだ。もう映畫なのかテレビなのか何なのかわからんが。
 氣になる點が一つある。討ち入り前の蕎麥屋の二階。分かれて集合してゐるのと、一カ所に集合してゐるもの、二種があるのだが…、かなりの人數の温麺を店の主が盆に載せて二階に運ぶ。討ち入り裝束の義士の姿を見て、畏れをのゝゐて、蕎麥ごと階段を轉げ落ちるシーン…。あのシーンでひつくり返る大量の蕎麥は、今、僕らがこの時代に食べる蕎麥よりも美味いのか、といふ問題である。
 合成保存料、着色料、だしの素、水道水、遺傳子組み替へ大豆?による醤油、アゲ、機械練り、機械切り、パック入りの生蕎麥…。反して、無添加、自然水、純然たる國産物資、手打ち蕎麥。
 落語でもさうだ。時うどんを見てゐても、宿屋仇の宴會シーンを見てゐても、いつも思ふ。七度のイカの木の芽和へも思ふ。青菜は?鯛の造りは?柳陰は?ちりとてちんになる前の豆腐は?白菊は?らくだの煮染め、寢床…。無骨だらうけど美味いんだろ?
 機械で大量生産してゐるものと、手間暇かけて手作りした物と。どうなの、美味かつたんだろ?
 あゝ、おなかゞ減つてきた。
 
【陣中日誌】

朝、お祝ひ。雜煮、おせち(寫眞略)。
晝、パンとグラタン(ダイヤモンドシティにて)。
夜、實家でカレー。
夕食後、大阪居所に戻り、忠臣藏見ながら、燒酎(忘年會の土産)とべつたら漬け、サンマの罐詰(隱れ食ひ)。