第84回 再興の形 (舊題「三太」)

 クリスマス…。 遠い昔のことだ。
 當時、お付き合ひしてゐた女性と聖夜を過ごさうと、ある宿を豫約してゐた。既に社會人になつてゐたから奮發して張り込んで「ラフォーレ琵琶湖」に泊まつて、しつぽりやる豫定であつた。
 豫約してから當日までの間に事態は急變した。フラれたのだ。あれよあれよといふ間に無殘に、哀れに、千々に亂れて。
 ふと薄目を開けて邊りを見渡すと、クリスマス直前に慘劇の中で、もがゐてゐたのは僕だけではなかつた。他に三人ゐた。
 ご本人さんたちにも樣々な差し支へがあるだらうからご本人が特定できぬやうに書くのが難しい。匿名の伏字で失禮するが、福島區在住の僕の一年四年の先輩で今もよく一緒に飮みに行く、醉ふと泣き蟲なマイミクの來●さん。京都の市内、染めもん屋の若大將、最近自宅を建てた一年上の、これまたマイミクの一●さん。三木の美人看護師、手すりと戲れる女、若い頃、今の僕より重かつた、ばに●さんだ。
 宿をキャンセルせず、そこで四人、大いに飮み、食らひ、泣いた。フつた相手を呪ひ再興を誓ひ合つた。
 今、みんな幸せに暮らしてをるが、今の生活があの頃誓つた再興の形なのかは後世の歴史家の判斷に委ねたい。
 ちなみに僕がフラれた相手は、今の妻である。
 
【陣中日誌】

朝、おかゆ薩摩揚げと水菜の炊いたん。
晝、おにぎり簡單に。
夕、こゆき、ひなこ、らんこをお迎へし、さゝやかなる宴。ケンタ、私製ケーキにひなこのデコレーション。寫眞撮らなかつたのが悔やまれる。