第47回 別れの膳

 過日、最期の晩餐のオカズメニユゥを諸賢に聞いた。皆樣の食ひ付きがすこぶる惡かつたが、かつまたご囘答もこれでもかといふ位にご貧相でご貧弱なオカズが羅列されてゐた。
 國家による贅を盡くすといふ大前提にもかゝはらず、宮廷料理や山海の珍味、豪華高額商品の厖大量なご注文がリストに並ばないのは、ご囘答の處刑前夜の皆樣方の狂錯亂或いは猛省叛抗などの精神状態を差し引いたとしても、同じ階層の産としての悦びと、滿腹で肉脂にまみれて死ぬるを快しとせぬ日本人としての魂の美しさに感じ入つた次第である。
 こゝで私も處刑を前に一食頂いておかう。炊飯器から、少し大きめの茶碗にフワッと飯を二合よさう。
 タラコ、野澤菜、水菜とアゲの炊いたん、あ、タラコは少し燒ゐて。それだけでよい。オカズは全部半分づゝ食べて殘しておく。飯を食ひ終はつたら、冷たい麥茶を並々と茶碗に入れて、グイと飮み干す。
 後の殘つた四合の飯のうち、二合でお握りを二個作り、お世話になつた看守の方に別れの膳として生前に振る舞ふ。
 こゝで、お願ひしておゐたアタッシュジャーの試作品 (型式AJ-0.01=開發コード「ジ・アンチタイガー」)に殘りの食材を全て入れ、最期に看守の方に埋葬時、このAJを同棺して頂くやうお願ひをする。
 そして手紙を二本書いて、齒を磨いて、辭世の句をひねつて寢る。
 
【陣中日誌】

朝 拔き
晝 長崎皿うどん
夜 自宅で八寶菜と冷奴