第11回 AJI

 暑い…。陽炎で景色が搖らぐ。合衆國ネバダリンカーン郡米軍管理地域内。私は砂漠を歩きながら一枚の看板の前で立ち止まつた。
 
 【無斷侵入者は射撃される】
 
 N37°14′36″52、W115°48′41″16。
 この坐標値を書いたメモと簡易のGPSが宅配便で家に屆いたのは十日程前だつた。差出人名にはJGとあつた。ピンときた。ジョゼッペ・グリマーニ元空軍中將だ。賢明なる皆さんは覺えておられるだらうか。かつて伊空軍中尉、後に中將まで進み退役した我が有限會社住之江重兵器リースのお得意樣だ。退役後故郷で農藥撒布の仕事をしてゐると聞いてゐたが、全く突然の郵便物だつた。
 「金網か…。」
 道がこゝから先には進めない。暑さで朦朧とする。その時である。遠くから調子の惡さうなエンジン音が聞こえてきた。懷かしい量産型のポンコツ複葉機の音。あれはウチのリースアップの買取品だ。…奴だ。JGが來た!
 複葉機は着陸すると私の方にそのまゝ進んできた。彼は私に叫んで言つた。
 「よく來たな。こゝから先は俺が案内する」
 「大丈夫なのか?入つても」
 私は金網を叩いて言つた。
 「あゝ、特別許可を得てある。機密を守るためにはこゝ以外の場所が他にあるまい。」
 彼はニヤリと笑つて言つた。
 「ようこそエリア51へ。ようこそAJIへ!」

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 懷かしのハートマーク − 住重リースのロゴが入つた自動扉が開いた。地下300メートルに設置された祕密研究施設だ。
 この製品への樣々な要望を滿たすため、人類の叡智を結集した一大プロジェクトが開始されてゐた。どうやつて保温する部分を區分するか。漬け物まで保温するのか。冷や飯好きにはどう對應するのか。既にこの星の最高の科學者や技術者たちが集められてゐた。私は發案者として招集されたやうだ。
 當分はこのAJIから歸れさうにない。AJI。さう、こゝアタッシュジャー研究所から。