第652回 鶏専門店の親父

朝、茶二杯。

いつも行く商店街に鶏屋がある。鶏専門店だ。
愛想の無い朴訥とした親父で、いつもくわえ煙草でしかめ面して鶏を捌いてる。
六十手前か。ミスタービーンに似てなくもない。

娘たちが言うことを聞かないときには
「鶏屋のおっちゃんに来てもらおか!」
というと大体は解決する。そのぐらい怖い顔してるんだ。

クリスマス。まつ梨保育園お迎えの帰り。天寧も一緒だった。
商店街の入り小口の店主たちが、布でできた赤白のサンタのお帽子を被っていた。今年は商店街みんなが被らないといけないようだ。

娘たちが、みんなサンタの帽子を被っていて可愛い!と喜ぶので数店見て歩いた。洋服屋、本屋、たこ焼き屋豆腐屋…。いつものおっちゃん、おばちゃんらがみんなサンタだ!

ふと天寧が立ち止まって呟いた。

「鶏屋のおっちゃんは…、被ってるんやろか」

息をのんだ。親馬鹿だが我が娘ながら良い指摘だ。
キャラクタと滑稽さのバランスが絶妙だろう。
見たい、物凄く見たい。

でも見には行かなかった。商店街の一番向こう端で歩けば時間がかかるんだ。
まつ梨がお腹がすいた、おやつおやつとうるさい。早く帰らないと。

家に帰ると妻も帰っていて、蛍光灯を買ってきてと言う。
ホイきた、と自転車に飛び乗り全速力で商店街に向かう。
閉店時間が迫っていたんだ、

鶏屋の!

そして、見た。

鶏屋は、帽子を…、






おお、被っている!

思った通りだ。何とも言えない良い味を出していた。
僕はこれを見て大満足で帰った。蛍光灯買うの忘れて手ぶらで。

妻にはアホだバカだとなじられたが、天寧に被っていたと教えると地団駄を踏んでくやしがった、見たかったと。

大人の特権だな。


昼、そうめんと水団。

夜、焼酎、鯛の荒鍋。